コラム

電力逼迫は、太陽光発電のせい?

2022年07月07日(木)20時27分

テレビのニュース解説では、1)電力逼迫の原因は、予想外に早い酷暑の到来と、火力発電所の点検・補修のスケジュールをこの時期に入れてしまった東京電力のミスにある、2)電力逼迫への対策は特に午後3時から6時の節電である、3)なぜかと言えば、その時間に太陽光発電の出力が落ちるからである、と説明すべきであった。ところが、1)をすっ飛ばして、3)→2)と説明するものだから、あたかも太陽光発電のせいで電力逼迫が起きるかのような印象を与えてしまった。

日本の政府、産業界、メディアの一部には、いまだに原発に恋々として、再生可能エネルギーの導入に否定的な傾向があり、それが今回の、間違いとは言えないがミスリーディングな報道にもつながっている。

だが、日本がぐずぐずしている間に世界は大きく変わってしまった。下の表を見てほしい。

marukawa20220707151601.jpg

表では、発電を行うエネルギー源の構成を示しているが、日本は(水力を除く)再生可能エネルギーの比率においてドイツやイギリスに遠く引き離されている。トランプ政権時代にいったん気候変動問題に背を向けていたアメリカでさえも、日本より再生可能エネルギーの比率が高い。(2015年の時点では、日本の方がアメリカより再生可能エネルギーの比率が高かった。)さらに、2021年には中国にさえ抜かれてしまった。

中国は先進国とは違って、まだ二酸化炭素排出量が増えている段階にある発展途上国である。発展途上国の立場から見れば、大気中にある二酸化炭素は先進国がかつて工業発展した時代に放出したものが大部分であるので、その落とし前は先進国がつけるべきだ、ということになる。これから発展する国には、先進国と同レベルの排出削減目標を課すべきではない、というのが途上国一般の立場である。

ただ、中国は2006年にアメリカを抜いて世界最大の二酸化炭素排出国となっており、その排出規模が巨大であるため、先進国の排出削減努力を一国で帳消しにしかねない。中国自身もそうした事情を踏まえて次第に立場を変えており、2020年には「2030年以前に排出のピークアウトを実現し、2060年以前に実質ゼロにする」という目標を自らに課すことを国連の場で宣言した。

そしてそれに向けての手を着々と打っている。今年6月には「再生可能エネルギー第14次5か年発展計画(2021~2025年)」を公布し、そのなかで風力発電と太陽光発電の発電量をこの5年間でそれぞれ倍増するとしている。それによって2020年には11%だった発電源に占める(水力を除く)再生可能エネルギーの割合を2025年には18%に引き上げるとしている。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 8
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story