コラム

恒大集団の危機は中国バブル崩壊の引き金になるか

2021年09月28日(火)20時03分

中国の不動産会社の場合、資産の多くは建設中ないし完成したがまだ売れていないマンションであり、比較的現金化しやすいものなので、資産が負債を上回っているようであれば、とりあえず問題はないはずである。

恒大集団の負債総資産比率をみると、2017年末の86.3%から2021年6月末の82.7%へやや下がっている。もし不動産価格が急落したりしたら、資産の額が減って負債を下回ってしまうので、やや危うい感じはあるものの、この数字を見る限り、恒大集団の経営が破綻しているようには見えない。

中国の不動産業の場合、負債比率が高くなるのは宿命といってよい。不動産会社は都市に広い土地を取得し、そこにいくつもの高層マンションが建てて売る。住宅団地が完成して売却が終わるまで、不動産会社の帳簿には、資産としては未完成のマンション群、負債としては銀行からの借金、未払いの工事代金や資材代金が載り続け、資産も負債も大きくなる。

前受け金が少ない

中国の不動産会社は、マンションが完成する前に売り出すことも多い。その場合、不動産会社が買い手から受け取った前受け金は不動産会社にとって負債となるが、資産の側には売約済みだがまだ買い手には渡していないマンションが計上される。こうした債務は、マンションを完成させて買い手に渡しさえすれば消えていくので、仮に増えたとしてもさほど気にする必要はない。

そこで、中国の不動産会社の経営状況を見る際には、負債から前受け金を除き、資産からも同額を除いたうえで負債総資産比率を計算することが多い。この指標でみると、恒大集団は2021年6月末で81.0%で、政府がガイドラインとする70%を上回っているとはいえ、危機的とまでは言えない水準である。

恒大集団の問題は、帳簿上の負債が多いことよりも、一つは負債の構成、もう一つは帳簿外の隠れ負債の多さにある。中国の不動産業界で売り上げトップの碧桂園の場合、負債のうち41%が買い手から預かった前受け金である。一方、恒大集団の場合、負債のうち前受け金の割合は11%にすぎない。恒大集団は、北京市、上海市といった発達地域よりも四川省、重慶市、安徽省といった相対的に所得水準が低い地域での住宅開発が多いため、他社と比べて前受け金をあまり集めることができないようである。

もし住宅が完成する前に前受け金が入ってくれば、その金で残りの工事をして買い手に住宅を渡すだけだが、恒大集団の場合は前受け金が少ないので、銀行からの借金など他の手段によって資金を調達して住宅団地の完成にこぎつけるしかない。しかし、2017年以降、銀行もいろいろと厳しい条件をつけてきて、恒大集団にはなかなかすんなりとは貸してくれなくなった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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