コラム

恒大集団の危機は中国バブル崩壊の引き金になるか

2021年09月28日(火)20時03分
建設中の恒大サッカースタジアム

無謀な経営が危機の原因である以上、救済は行われない可能性が高い(広州市に建設中の恒大サッカースタジアム、9月26日) Thomas Suen-REUTERS

<恒大の問題は、高利を謳って従業員や取引先に売りつけた投資信託など帳簿外の負債が多いことだ。既に債務超過であるとすれば、経営悪化が自己責任であるだけに当局も破産させざるをえない。中国経済への波及は止められるのか>

中国の大手不動産会社、恒大集団の経営危機が世界の株式市場を動揺させている。

9月23日に恒大集団が社債の利払いを行う直前には、利払いができなくなるのでは、という見方が広がり、世界の株価が下がった。しかし、その後利払いが行われたため、世界の株価も少し戻した。しかし、この先恒大集団は年末までに700億円以上の利払いが控えている。そのどこかでデフォルトに陥る可能性は「99.9%」だとみられている(『財新周刊』2021年第37期)。

実は、恒大集団をはじめとする中国の大手不動産会社の経営は2018年頃にもかなり危険な様相を見せていた。表に示したように、恒大集団の負債総額は2014年末の3621億元から2017年末には1兆5195億元に急拡大し、負債の資産に対する比率(負債総資産比率)も86.3%とかなり高くなった。同様の状況は他の大手不動産会社でも起きていた。

投げ売り連鎖のシナリオ

この数字が直ちに経営の破綻を意味するわけではないものの、中国各地で建設途上の住宅団地が目立つようになったこととも合わせて考えると、不動産会社が売れない住宅をいっぱい抱え込んでいるようであった。こうなると、不動産会社は資金繰りが行き詰ってマンションを投げ売りするようになり、マンション価格が値崩れする可能性が高い。住宅価格全体が下がると、不動産会社の資産の価値が目減るので、多くの不動産会社で資産の額が負債を下回って債務超過になり、経営破綻する......。こういう恐ろしいシナリオが見えていた。

marukawachart.png

しかし、2018年にはそういうことは起きなかった。この年から恒大集団の債務の拡大にブレーキがかかり、負債総資産比率も少し下がりはじめていた。

だが、このたびの恒大集団の危機はまさに恐れていたシナリオが始まったことを示す。恒大集団が破産に向かうことはほぼ確実であろう。問題はその影響がどこまで広がるかである。中国の不動産価格全体が値崩れするだろうか。そうなれば、金融や住宅関連資材など他の産業に打撃が及び、中国経済全体が大きなダメージを受ける可能性も高い。

そこで、中国の経済誌『財新』の記事をもとに、恒大集団の危機が起きた理由を掘り下げてみていきたい。

日本のマスコミでは、恒大集団の負債が1兆9665億元(約33兆円)に上ることが強調されている。しかし、負債額が大きいことが直ちに問題であるというわけではない。より重要なのは負債と資産の大小である。仮にあなたに1億円の借金があったとしても、銀行に1億2000万円の預金があるのであれば、それは借金苦ではない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story