コラム

迫りくるもう一つの米中逆転

2021年05月05日(水)20時43分

図1に見るようにアメリカと中国の平均寿命の差は次第に縮まっており、2019年までの趨勢で行くと2025年には中国の平均寿命がアメリカのそれを上回りそうだ。

そこへ世界的なコロナ禍が襲ってきた。中国における新型コロナウイルス感染症による死者数は5月2日までの累計で4636人。中国の人口規模を考えると、コロナ禍によって平均寿命に目に見えるような影響が出るとは考えにくい。2020年時点での平均寿命が明らかになるのは今年6月頃であるが、おそらく77.5~77.6歳になるだろう。

一方、アメリカでは、最近の国立衛生統計センター(NCHS, CDC)の発表によると、2020年前半の時点での平均寿命は77.8歳と、2019年より1年縮まってしまった(Wamsley, 2021)。中国との差は0.2~0.3年でしかない。

注意したいのは、2020年前半の時点ではアメリカでのコロナ禍の死者数がまだ12万7600人だったということである。2021年5月初頭の時点で、アメリカのコロナ禍による死者数は57万人を優に超えている。となると、アメリカの平均寿命はさらに短くなるはずである。

2020年のアメリカの平均寿命については、南カリフォルニア大学のアンドラスファイらが2020年10月までの情報に基づいて行った推計がある(Andrasfay and Goldman, 2021)。そこでは2020年末時点での死者数に応じて高位(34.8万人以下)、中位(32.1万人以下)、低位(27.6万人以下)という三つのシナリオが提示されているが、実際の死者数は35.1万人と高位シナリオを上回ったので、ここでは高位シナリオに基づく推計を紹介しよう。

それによると、2020年の平均寿命は77.4歳となり、コロナ禍がなかった場合の推計値(78.6歳)より1.2年短く、中国を下回る(図1の点線)。

「ヒスパニックは長生き」の謎

しかも、人種間の寿命格差が拡大する。黒人の平均寿命は72.6歳となり、コロナ禍がなかった場合の推計値(74.9歳)より、2.3年も短くなってしまう。ヒスパニックを除く白人の平均寿命は78.5歳から77.8歳へ0.7年縮まるのみなので、黒人たちがコロナ禍の打撃をひときわ強く受けていることがわかる。

一方、ヒスパニックはもともと白人より平均寿命が長く、もしコロナ禍がなければ2020年には81.8歳になっていた。所得も学歴も低いヒスパニックが白人よりも長生きする現象は人口学者たちによって「ヒスパニック・パラドックス」と呼ばれている。それはヒスパニックの方が喫煙率が低いからだとか、ヒスパニックが健康を害した場合にアメリカを出て故国に帰るからだともいわれてきた。しかし、今回のコロナ禍では多くのヒスパニック住民が犠牲となったため、平均寿命が3.3年短くなり、78.5歳になるという。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米消費者信用リスク、Z世代中心に悪化 学生ローンが

ビジネス

米財務長官「ブラード氏と良い話し合い」、次期FRB

ワールド

米・カタール、防衛協力強化協定とりまとめ近い ルビ

ビジネス

TikTok巡り19日の首脳会談で最終合意=米財務
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story