コラム

【EVシフト】数多のEVメーカーが躍動する中国市場、消えた日本企業

2020年11月18日(水)18時20分

蔚来汽車(NIO)は新興EVメーカーの中でも一番の注目株(写真は北京の販売店に展示されるNIO EP9) REUTERS/Tingshu Wang

<「iミーブ」が生産停止に追い込まれた日本と中国の違いは、中国ではEVメーカーとガソリン車メーカーが競争し、EVの未来に社運を懸ける「スモール・ハンドレッド(数百のベンチャー企業)」がしのぎを削っていることだ>

菅義偉首相が2050年までに日本の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を明らかにした。すでに中国は2060年まで、EUも2050年までに排出を実質ゼロにすると宣言しており、バイデン政権になったアメリカが同様の目標をうち出せば、世界的に二酸化炭素の排出削減へ向けた大きな流れが生まれてくるだろう。

その目標を実現するためのカギは、人の移動やモノの輸送に伴う温室効果ガスの排出をいかに削減するかである。ガソリンや軽油で走る自動車を電気自動車(EV)に切り替え、それを再生可能エネルギーで充電すれば、日本の二酸化炭素排出量の16%を占める自動車からの排出をゼロにできる。内燃機付き自動車からEVへの切り替えは温室効果ガス削減の目標を達成するために絶対に必要である。

自動車産業の寡占は過去のもの

EVは内燃機自動車よりも構造が簡単で、モーター、蓄電池、制御装置を積めば動く車を作ることができる。電気製品の常で、こうしたユニット部品はモジュール化され、単体で売られるようになるだろう。そうなれば、そうしたモジュールを買ってきて組み合わせて車を作ることができるので、小企業もEV生産に簡単に参入できるようになる。

そうなると、世界的な大企業による寡占化が進んでいた自動車産業の構造が根底から覆され、多数の小メーカーがEVを作る時代が来るだろう。すなわち、自動車産業は「百以上の小企業群(スモール・ハンドレッド)」の時代になる――。村沢義久氏は2010年に刊行した『電気自動車:市場を制する小企業群』(毎日新聞社)のなかでそう予言した。

私は、中国についていえばまさしく村山氏の予言通りになるだろうと思った。というか、中国はもともと内燃機自動車の時代からスモール・ハンドレッドが自動車を作っており、政府が少数の大メーカーに集約したいと思っても、なかなか実現しなかったのだ。

村沢氏の予言から10年が経ち、中国のEV業界では今まさにスモール・ハンドレッドが躍動する時代が到来している。

その最大の立役者はなんといってもアメリカのテスラ・モーターズである。米中貿易戦争が燃え盛るなかでも我関せずという感じで上海に単独出資で工場を建て、2019年11月より生産を始めた。

生産を始めた時期は中国のEV市場の低迷期だった。電気自動車を含む新エネルギー車の購入に対する補助金が削減されたため、2019年後半から新エネルギー車の販売はマイナス成長に陥っていたのである。2020年に入ってからさらにコロナ禍の打撃も加わり、2月には中国での新エネルギー車販売台数が前年同月比7割減と落ち込んだ。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ

ビジネス

アップル、関税で今四半期9億ドルコスト増 1─3月

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P8連騰 マイクロソ

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント財務長官との間で協議 先
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story