コラム

爆発する中国のAIパワー

2019年12月23日(月)17時15分

つまり、買い物はネットショッピング、支払いはすべてキャッシュレス、ご飯は美団などの配送サービスのアプリで注文して配送してもらい、移動はライドシェアやシェア自転車を使う、という中国の若者のような生活を送れば、知らず知らずのうちにデータをどんどん生み出していくことになる。データが生産要素であり、21世紀の石油なのであれば、こうした生活は社会のために有用な資源を生み出しているということになろう。

李開復によれば、中国はデータ量の優位を生かしてAIの各分野でアメリカとの差を急速に詰めている。AIの各分野のうち我々にもっともなじみのあるのが「インターネットAI」である。ユーチューブで動画をみると、似たような動画やおすすめの動画が次々と現れてくるが、あれはインターネットAIが人々のクリック行動から個々人の興味や関心を推測しているからである。こうしたタイプのAIではアマゾンやグーグルなどのアメリカ勢が強いが、中国勢もアリババ、百度があり、TikTokを運営するバイトダンスのような新興企業も台頭してきた。現状では米中の実力は五分五分だが、5年後には6:4で中国勢が圧倒するようになるだろう、と李開復は予測する。

「認識AI」では中国がリード

次に「ビジネスAI」という分野があり、これは不正の発見、テロリズムの防止、医療診断、金融などに用いるソフトウェアを開発するものである。例えば最近みずほ銀行とソフトバンクが始めた「Jスコア」は生活の状況や取引実績から信用スコアを出して、それに基づいて融資の可否や金利を決める仕組であるが、そこではAIが使われているという。この「ビジネスAI」の分野では中国はアメリカに1:9ぐらいでリードされているが、5年後には3:7ぐらいになるだろうという。

また、「認識AI」という分野は顔認証や音声認証、自動翻訳といったものを含む。中国はこの分野が特に発達しており、例えばお店の入り口でキャッシュレス口座と顔とを結びつけ、支払いは「顔パス」で行う、といったように顔認証が日常の買い物の場面でも導入されている。現状でも中国がアメリカを6:4でリードしているが、5年後には差がさらに開いて8:2になるだろうという。

「自動AI」という分野は、アメリカではグーグル、中国では百度がやっている自動車の自動運転や、大疆科技(DJI)によるドローンの自動運転などを含む。この分野では目下中国はアメリカに1:9ぐらいでリードされているが、5年後には5:5になるという。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米経済「想定より幾分堅調」の公算、雇用は弱含み=F

ワールド

ハマスは武装解除を、さもなくば武力行使も辞さず=ト

ビジネス

情報BOX:パウエルFRB議長の講演要旨

ワールド

米の対中関税11月1日発動、中国の行動次第=UST
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 5
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story