コラム

消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

2019年09月11日(水)16時00分

経済産業省は2018年2月まではまだICカード推しだったが、中国のアリペイやWeChatペイが中国人観光客とともに日本に押し寄せてくるに至って、QRコード決済の推進に舵を切り替えた。そして、2018年7月には「キャッシュレス推進協議会」を立ち上げた。

この協議会で取り組んだのがQRコードの規格統一である。現状では各社がバラバラにQRコードの規格を作っているので、このままでは小売店はPayPay、LINE Pay、楽天ペイ・・・と、各社に対応したQRコードを店頭に用意しておかなくてはならない。それでは大変だというので、QRコードを一個店頭に備えておけば各社の決済アプリが使えるように規格を統一しようというのである。

だが、以前もこのコラムで論じたように、この方針は一見してQRコード決済を推進しているようでいて、実際にはQRコード決済の普及の足を引っ張るものである。キャッシュレス決済が普及するうえで肝心なことは、決済業者が中小小売店を足しげく回って説明し、導入するよう説得する地道な営業活動を行うことである。ところが規格を統一してしまうと、ある業者がせっかく開拓した小売店でも他社の決済アプリも使えるようになり、フリーライドされてしまうことになる。それだとバカバカしくて誰も営業をしなくなるだろう。

大手銀行と大手小売の陰謀か?

さすがにキャッシュレス推進協議会でもその問題には気づいていて、小売店を開拓した業者のアプリだけが使えるようにすることを検討中であるという(綿谷禎子「進むQRコードの共通化。「JPQR」の登場で〝○○ペイ〟はもっと分かりやすくなるのか」)。

そもそもこのQRコードの規格統一の話自体、先行する業者の足を引っ張るために大手銀行や大手小売業者などが役所を巻き込んで仕掛けたものではないかと私は疑っている。中国でのアリペイやWeChatペイの発展ぶりを見ると、スマホマネーは銀行の存立意義そのものを根底からひっくり返すぐらいの破壊的な影響を及ぼすものであることがわかる。中国では、ユーザーは銀行口座から預金を引き出してアリペイに入金し、そのなかで公共料金の支払いや日常の買い物の支払いに使うだけではなく、MMFで運用したり、他のユーザーに送金することもできる。つまり、スマホマネーによって銀行の消費者業務の大半が代替されてしまうわけで、手数料収入に頼る銀行にとっては大きな脅威なのである。

日本のQRコード決済業界では、PayPayとLINE Payが普及に力を入れており、毎週のようにどこかのコンビニで使えば100円割り引き、といったキャンペーンを繰り広げている。営業努力の甲斐あって、最近では中小小売店でこれらが使えるというマークを見ることも多くなってきた。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ

ワールド

全米で反トランプ氏デモ、「王はいらない」 数百万人

ビジネス

アングル:中国の飲食店がシンガポールに殺到、海外展

ワールド

焦点:なぜ欧州は年金制度の「ブラックホール」と向き
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みんなそうじゃないの?」 投稿した写真が話題に
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story