コラム

消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

2019年09月11日(水)16時00分

最近の調査でも、利用割合がもっとも高かったのがPayPay、第2位がLINE Pay、第3位が楽天ペイで、銀行系はゆうちょペイが10位、りそなウォレットが17位、みずほ銀行系のJ-Coin Payが23位と下位に沈んでいる(MMD研究所「2019年7月 QRコード決済利用動向調査」)。また、セブンイレブンの7Payが今年7月にサービスが始まったと思ったら不正利用が相次いで1か月後には撤退を決めたのも記憶に新しいところである。

QRコード決済業界のなかでは下位に沈む大手銀行や大手小売業者らが、「QRコード決済が乱立すると小売店や消費者が混乱する」といった理由をつけて、経済産業省の力を使って先行勢力に待ったをかけようとしたというのがこの規格統一の本質だった。結局、QRコードの規格統一は、政府の規制によって大手も中小もつぶれないように守っていく、という高度成長時代に日本の銀行業で行われていた「護送船団方式」の再現を狙ったものであった。

上位2社は不参加

だが、幸か不幸か日本政府が民間企業に対して行使できる力は高度成長期に比べてはるかに弱まっている。今年8月になって上位2社のPayPayとLINE Payは店舗に掲示するタイプのQRコード統一規格に参加しないことが明らかになったのである。

この2社が不参加を決めたのは、PayPayはアリペイ、LINE PayはWeChat Payとすでに規格を統一していて、海外(主に中国)でこれらを使っている人々が日本に来てもそのまま使えるようにしているからである。営業活動もしないような国内の弱々しい業者と同じ船団にいるよりも、何億人ものユーザーのいる海外の船団に入る方が有利と考えるのは当然である。

2社が統一規格に参加しないことを伝えた日本経済新聞(8月14日付)の記事には「キャッシュレスに逆風」という見出しがついていたが、まったく逆だと思う。むしろ不参加を決めたことで、上位2社はフリーライドされる心配もなく、これからも営業に励み、彼らが先導役となってQRコード決済が普及していくことになるだろう。そして護送船団に入ってフリーライドしようとしていた業者たちは、船団ごと淘汰されることになるだろう。乱立の問題を解決するには結局そうやって弱い業者、やる気のない業者を淘汰していくしかないのである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン戦争は2週目に、トランプ氏「無条件降伏」求め

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 6
    女性の顔にできた「ニキビ」が実は......医師が「皮…
  • 7
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリ…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story