コラム

エスカレーター「片側空け」の歴史と国際比較

2019年05月09日(木)11時46分

理想を言えば、エレベーターが混み合っているときは2列で立って乗り、比較的空いている時には急ぐ人に配慮して片側を空けるといった風に臨機応変にできればいい。首都圏の鉄道会社はエスカレーターでは止まって手すりにつかまるよう求めているが、空いているときに歩いて上るぐらいは何の害もないのではないかと思う。鉄道会社が、エスカレーターを歩くのは危ないから、あるいはエスカレーターは止まって乗るように設計されているから歩いてはいけない、というのはいかにも建前っぽくて白々しい。それゆえに、鉄道会社の呼びかけにいま一つ本気度が足りないように感じられるし、乗客たちへの説得力も弱い。

ただ、片側空けが人々の思いやりによって行われているのではなく、恐怖に支配された結果だとすれば、建前であれ何であれ、一度この慣習をリセットしたほうがいいように思えてくる。問題は、どうやってやめさせるかである。

あおり運転は取り締まれるが

あおり運転についていえば、東名高速での夫婦死亡事件が社会的に大きな注目を浴び、警察が取り締まりを強化したことで、以前に比べてかなり減ったように思う。エスカレーターに関しても、問題となる行動は片側を空けて乗ることでも、歩いて上ることでもなく、前に立つ人を威嚇したり、押したりすることであるはずなので、そうした「あおり行為」さえやめさせることができればエスカレーターが恐怖に支配されることもなくなる。ただ、あおり運転は道路交通法によって処罰の対象となるのに対して、エスカレーター上での軽微な迷惑行為をどういう法的根拠によってやめさせるかはかなりの難題であろう。

となると、あとは鉄道駅などで粘り強く呼びかけを続けるぐらいしか対策が思い当たらないが、とりあえず以下のような点を提言しておく。まず、個々の鉄道会社でバラバラに取り組むのではなく、首都圏の鉄道会社で一斉にキャンペーンを始めたほうがいい。また、標識はサンパウロ地下鉄のように「2列に立って乗れ!」などと単純明快に示し、くどくどと理由を説明しない方がよい。そして、短期間のキャンペーンで終わらせるのではなく、この慣習がリセットされるまで続けるべきである。

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プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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