コラム

中国のイノベーション主導型成長が始まった

2016年06月22日(水)16時42分

 驚くべきはその普及の速度で、「微信支付」はサービス開始からまだ2年ほどなのに、すでに2億人がアプリに銀行口座をリンクしています(すなわち使える状態になっているということです)。日本でも中国人旅行客が多く来るような小売店で近々使えるようになりそうです。

「支付宝」や「微信支付」を電子マネーとして使う時の技術は二次元バーコードというかなり以前からある技術であり、決して新技術とはいえません。しかし、これらは中国の金融の世界を大きく変えようとしています。例えば、どこかへ送金しようとした場合、銀行から送金すると手数料をとられますが、「微信支付」や「支付宝」にいったんお金を移し、そこから相手に送金すれば手数料がかからないため、銀行での送金が行われなくなる可能性があります。また「支付宝」が、口座に残っている残高を高金利の金融商品で運用できるサービス(「余額宝」)を始めたところ、サービス開始から半年で中堅銀行並みの資金を集めてしまいました。

 アリババとテンセントはそれぞれ中小企業向け融資を専門とする銀行も設立しました。とりわけテンセントが設立した微衆銀行は預金の受け入れも融資の申し込みも窓口はスマホのみ、という大胆な試みです。

 このように「支付宝」と「微信支付」は、使っている技術はそれほど新しくないものの、人々の生活を大きく変えるばかりか、これまで国有大銀行によって支配されてきた中国の金融業を根底から覆す可能性さえあります。そうした創造的破壊こそイノベーションと呼ぶにふさわしい現象といえましょう。

 ところで、「おサイフケータイ」はなぜ使われなくなったのでしょうか。私自身は、携帯電話にSuicaを入れて1年ぐらい使った時、突然使用料を徴収するという通知が来たので使用をやめました。そこから類推するに、おそらくおサイフケータイ導入に必要とされた投資をどう回収するかというビジネスモデルがうまく描けていなかったことが失敗の原因だと考えられます。

「微信支付」も今年3月から一部の取引について有料化したことが波紋を呼んでいます。運営コストがかかる以上、どこかで収益を得ないとサービスを持続することはできませんが、収益の獲得法を工夫しないと顧客が逃げてしまう可能性があります。創造的破壊の後に、持続可能なビジネスモデルをどう構築するかが問われています。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国レアアース磁石輸出、1─2月は前年比8.2%増

ビジネス

英中銀の緩和観測後退、JPモルガンは利上げ予想に転

ビジネス

訂正-ECB、年内利上げ観測強まる 中東紛争でイン

ワールド

イスラエル軍、テヘランに新たな攻撃開始 イラン「ミ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
  • 4
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 9
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 10
    「嘘でしょ!」空港で「まさかの持ち物」を武器と勘…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story