コラム

日本の新幹線の海外輸出を成功させるには

2015年11月18日(水)18時46分

 日本の新幹線と中国高速鉄道の違いはむしろ出発前と出発後にあります。日本の新幹線の駅はだいたい都市の中心にあります。なので例えば東京都心のホテルから大阪に向かう場合、東京駅での新幹線の出発時間の40分前にホテルを出れば間に合うでしょう。

 一方、先だって中国広東省の広州から潮州へ高速鉄道で向かった時、私は広州市中心部のホテルを列車の出発時間の2時間以上前に出ました。なぜそんなに早く出発したのかというと、私が人一倍心配性だからではなく、高速鉄道の出発駅である広州南駅が街の中心部からすごく遠いのです。ホテルからタクシーで40-50分かかりました。さらに駅に着いてからも大変です。中国の鉄道駅では空港と同じような手荷物検査がありますし、身分証明書のチェックもあります。検査が終われば乗る列車のホームに向かいますが、中国の鉄道の仕組みではホームに自由に立ち入ることはできません。出発15分前までは大きな待合室で待ち、15分前になったら一斉にホームに入ります。

 こんな風に、駅に着いてから出発するまでに時間がかかり、かつ高速鉄道の駅はどこもバカでかいですから、出発予定時間の40分ぐらい前に駅に着くようにしないとけっこう泡を食うことになります。もし切符も駅で買おうと思ったら、切符を買うのに行列せねばなりませんから出発の1時間前には駅に着く必要があるでしょう。

 広州南駅から3時間ほどで列車は潮汕駅に着きました。4年前に潮州に行ったときは広州から高速道路で6時間以上かかったことを思えば楽な旅でした。でも潮汕駅は潮州と汕頭という2つの都市のちょうど中間の何もないところにあります。ここから車で20分ぐらい行ってようやく目的地の潮州に到着です。

 中国の高速鉄道の車両は日本の新幹線より速いスピードで走れることが売りですが、中国の高速鉄道に乗っての実感は、鉄道のスピードがいくら高まっても、乗る前と後が相変わらず非効率だから結局旅行に要する総時間は期待したほど短くならない、ということです。

 こういう違いは、送迎の車に乗って、普通の乗客とは別の入り口から鉄道に乗る政府要人は気づかないでしょう。次にどこか海外の政府要人に新幹線を売り込むときには、ぜひご自身で切符を買ってご自身で新幹線の駅まで行って乗っていただき、同じことを中国でもやってもらったらよいでしょう。

新幹線の突き出たを真似する未熟さ

 ただ、乗る前後の効率性で日本が世界一かというとそれは必ずしもそうではありません。日本人は気づきませんが、日本の新幹線の切符を海外で買うのはかなり困難です。一方、ドイツICE、フランスTGV、さらに中国の高速鉄道も、日本にいながらにしてネットで簡単に切符を買えます。ドイツとフランスの場合、ネットで購入してプリンターで印刷すればそれがそのまま切符になります。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB追加利下げは慎重に、金利「中立水準」に近づく

ビジネス

モルガンS、米株に強気予想 26年末のS&P500

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機「ラファール」100機取得へ 

ビジネス

アマゾン、3年ぶり米ドル建て社債発行 120億ドル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 8
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 9
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 10
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story