コラム

日本の新幹線の海外輸出を成功させるには

2015年11月18日(水)18時46分

 それにしても菅長官の発言は他国の大統領がかかわった決定に対するコメントとしては外交的配慮を欠くものではなかったかと思います。

「インドネシアで高速鉄道が持続可能な事業として成立するよう熟考して提案したが採用してもらえなかったことは残念です。なぜ採用してもらえなかったのかをよく反省し、もっとご満足いただける案を提案しますので、次はよろしくお願いします」──たとえ腹の中は煮えくりかえっていても、「トップ・セールスマン」としてこれぐらいのことは言ってもよかったかと思います。

 さて、中国でインドネシア高速鉄道商戦をどのように報じているかを見てみると、意外に冷静で、例えば『21世紀経済報道』2015年10月1日付けでは、中国側の「勝利」、とカッコつきで書いております。なぜカッコをつけるかというと、中国側がこの仕事をとるためにかなり無理をしたからです。すなわち中国政府が鉄道駅を建設することや、インドネシアに合弁の車両工場を設立して、鉄道車両を生産し、インドネシア国内だけでなく他のアジア諸国にも輸出することを約束したのだそうです。

 要するに、中国政府はインドネシアに対して調子のいいことを言っていろいろ約束してしまったけれど果たして大丈夫なのか、という疑念がカッコのなかに込められているのです。

 インドネシアで受注できなかったのは残念ですが、今後新幹線を海外に売り込んでいくにあたっては、売り込み先のニーズに対応するように新幹線の優位をアピールしていく必要があります。どうも日本は相手側が重視するポイントを外したアピールをしているのではないかと私は疑っております。

 日本の鉄道会社は新幹線が数分に一便という頻度で出発することや複雑なダイヤを時刻表通り正確に運行していることを大変誇りにしています。しかし、遠距離の都市間の旅客量が日本ほど多い国は世界に多くないのです。数分に一便出発しています、と言われても外国の人々は「わが国にはそんなニーズないな」と思うことでしょう。

 私は中国の高速鉄道にもかなりの回数乗りましたが、私の経験の範囲で言えば、中国の高速鉄道も時刻表通りに運行されています。乗り心地に関しては日本の新幹線に比べて遜色ないです。なにしろ中国高速鉄道のシートは日本の新幹線のものを模造したものですから、座っている感覚はまったく同じです。

時間通りの運行は日本の専売特許ではない

 これがフランスのTGV、ドイツのICTになりますと、シートの半数は進行方向に背を向けていますので、運悪くそういう席にあたったら背中の方向に車両が走っていくこととなり、あまり心地よいものではありません。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳、15日にアラスカで会談 ウクライナ戦争終

ビジネス

トランプ大統領、内国歳入庁長官を解任 代行はベセン

ビジネス

アングル:米関税50%の衝撃、インド衣料業界が迫ら

ワールド

プーチン氏、中印首脳らと相次ぎ電話会談 米特使との
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何か?...「うつ病」との関係から予防策まで
  • 3
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トップ5に入っている国はどこ?
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 7
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 8
    今を時めく「韓国エンタメ」、その未来は実は暗い...…
  • 9
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 10
    パリの「永遠の炎」を使って「煙草に火をつけた」モ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 9
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 10
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story