コラム

日本の新幹線の海外輸出を成功させるには

2015年11月18日(水)18時46分

新たな競争相手として台頭した中国(高速鉄道「和階号」の操車場、湖北省武漢) Stringer-REUTERS

 日本と中国はインドネシア・ジャワ島のジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道の受注をめぐってしのぎを削ってきましたが、2015年9月29日にインドネシア政府が日本政府に対して「我々は中国案を歓迎する」と伝え、日本の敗北が決まりました。日本人が愛してやまない新幹線ですが、これまで海外への売り込みが実を結んだのは台湾だけ。それも当初はドイツ・フランス連合が受注していたのを、日本びいきの李登輝総統(当時)の介入によって、車両と信号システムは日本のものが採用されたという経緯でした(読売新聞中部社会部『海を渡る新幹線』中公新書ラクレ、2002年)。

 かつてはドイツのICE、フランスのTGVが海外市場での日本の新幹線のライバルでしたが、ここへ来て中国の高速鉄道もライバルとして浮上してきました。競争が激しくなるなかで新幹線の海外売り込みを成功させるにはどうしたらいいのでしょうか。

 今回、インドネシアが日本案ではなく中国案を選んだポイントはインドネシア政府の財政負担があるかないかでした。ジョコ大統領は早くから、いまインドネシアはスマトラやスラウェシの鉄道建設に重点を置くべきであってジャワ島の高速鉄道は優先順位が低いと言っていました。

 それに対して、日本政府が出した案は総事業費の75%を円借款によってまかなうというものでした。円借款は国から国への援助ですから、日本案を受け入れるということはインドネシア政府が最終的な返済を保証することを意味します。しかも、円借款でまかなわれない部分についてもインドネシア政府の財政支出を求める案でした。つまり、日本案はインドネシア側が重視する条件を満たしていなかったのです。

  一方、中国案は総事業費をすべて中国の国家開発銀行が融資する、というものでした。国家開発銀行は政府系銀行とはいえ、融資は年利2%という商業ベースでインドネシア側の事業主体に対して行われます。金利は日本の円借款(0.1%)より高いですし、政府保証もありませんから、中国案を採用した場合には高速鉄道の事業主体は一生懸命稼いで国家開発銀行からの借金を返済しなければなりませんし、貸す側は貸し倒れになるリスクを負います。

多くのコスト負担を約束した中国

 高速鉄道を運営する側からすれば日本案の方がずっと楽なはずです。菅義偉官房長官はインドネシアが中国案を採用したことに対して「常識では考えられない」とコメントしましたが、その発言の意図は、中国案を採用したのでは高速鉄道の事業主体が借金返済に行き詰まるリスクがあるということなのだろうと思います。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フーシ派、米のイラン攻撃への対応「時間の問題」

ワールド

米がイラン核施設攻撃、トランプ氏「和平に応じなけれ

ワールド

パキスタン、トランプ氏をノーベル平和賞に推薦 印パ

ワールド

米のイラン攻撃、各国首脳の反応 イスラエル首相「お
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 2
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 7
    ジョージ王子が「王室流エチケット」を伝授する姿が…
  • 8
    中国人ジャーナリストが日本のホームレスを3年間取材…
  • 9
    イギリスを悩ます「安楽死」法の重さ
  • 10
    ブタと盲目のチワワに芽生えた「やさしい絆」にSNSが…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story