コラム

「200億円赤字」AbemaTVがメディアと広告の未来を変える?

2017年06月21日(水)11時13分
「200億円赤字」AbemaTVがメディアと広告の未来を変える?

AbemaTVアプリより

<昨年4月、サイバーエージェントがテレビ朝日と立ち上げたインターネットTVの「AbemaTV」。まだまだ大赤字だが、利用者数は着実に伸びている。冷静かつ大胆な先行投資による事業だが、どのような戦略に基づいているのか>

「TVを見なくなった人、TVを持たなくなった人が増えてきている」
「スマホからTVを視聴する習慣をつくる」
「マスメディアをつくる」

テレビ朝日との合弁事業として昨年4月に立ち上げられたサイバーエージェントのAbemaTV(アベマTV)が、順調に視聴者を増やしている。開局1年での視聴アプリDL(ダウンロード)数は1600万を超え、ネット等でも話題となった5月7日の開局1周年特別企画番組「亀田興毅に勝ったら1000万円」では1420万の視聴を集めた。

藤田晋社長の「マスメディアをつくる」という戦略目標の数値となっているWAU(1週間当たりの利用者数)1000万という定量目標に対しても、今年3月時点ですでに411万という水準にまで到達している。

「AbemaTVは200億円の赤字」という藤田社長の発言が注目されている一方で、AbemaTVが同社の広告・ゲーム事業からの堅実な収益・事業構造をベースとして、冷静かつ大胆に先行投資されていること、「早期の無理な黒字化よりは良質な番組作り」を最優先事項としていることなどは、あまり知られていないのではないだろうか。

AbemaTVの戦略を詳しく分析し、その意外な独自性を評価してみると、「マスメディアと広告の未来図」までもが塗り替えられる可能性さえ感じてくる。

本稿では、イスラエルスイスの国家としての競争戦略分析で使用した5ファクターメソッド(図1参照)を分析ツールとして、サイバーエージェントにおけるAbemaTVの大戦略(グランドストラテジー)の分析を行うことにしたい。

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【天と地】「天の時」と「地の利」から考えて合理的な戦略か

AbemaTVは、無料・24時間編成・約30チャンネル・若年層ターゲットを特徴とするインターネットTVである(注:有料のプレミアム会員制度もある)。開局1年で1600万DLを突破し、「App Ape Award 2016大賞」や「2016年ベストアプリ」(Google)等も受賞している。今年3月時点でMAU(1カ月当たりの利用者数)753万、WAU 411万と順調に視聴数を伸ばしている。

AbemaTVの大戦略である「道」を分析する上で重要となるのは、その戦略が「天の時」と「地の利」の両者から考えて合理性の高いものであるかどうかだ。そこでAbemaTVの大戦略の分析に当たっては、まずは「天」と「地」の分析から見てみることにしたい(図2参照)。

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【天】藤田社長が絶好のタイミングと判断して先行投資

「天」とは、「天の時」という表現に示されるように、外部環境の中長期的な変化を競合に先んじて予測し、壮大なグランドデザインから計画的に大きな目標を実現していくためのタイミング戦略である。

AbemaTVは、以下に指摘するようなポイントから、藤田社長がマスメディアとしてのインターネットTV事業を立ち上げるのに絶好のタイミングであると判断して、つまりはAbemaTVに「天の時」があることを予測して、先行投資を決断したものである。

●TVを見ない人・TVを持たない人が増加
●スマホの普及率が増加(今年3月の内閣府経済社会総合研究所「消費動向調査」によると、一般世帯のスマホ普及率は69.7%にまで増加)
●スマホ広告市場が急成長(サイバー・コミュニケーションズ「2016年インターネット広告市場規模推計調査」によると、スマホ広告市場は前年比23.7%増加の8010億円にまで拡大)
●動画配信・動画広告が急成長
●デジタル広告費がTV広告費を2018年に超える(電通による2017年6月予測)

すなわち藤田社長は、TVを見ない人・TVを持たない人が増加する一方、スマホの普及率が増加、利用時間や接触回数も増加することによって、スマホ広告市場、特に動画広告市場が大きく成長することに着目したわけだ。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

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