コラム

中国で「性風俗」が合法になる日はそう遠くない!

2018年01月04日(木)20時40分

ところで、なぜ中国政府はナイトエコノミーを発展させようとしているのだろうか。それは今、中国経済が転換期を迎えたことに起因している。

製造業と公共投資に頼った成長は、既に限界に達している。いま中国に必要なのは「産業昇級(産業アップグレード)」、すなわちサービス産業への転換だ。ひと口にサービス産業といってもさまざまな種類があるが、その全てをバランスよく発展させる必要がある。ナイトエコノミーとて例外ではないというわけだ。

もちろん、ナイトエコノミーの一角を成すとはいえ、お堅い中国共産党が性風俗を今すぐに認めることはないだろう。だが、将来的にはそちらに舵を切ることは間違いない。性に対する欲求は人間の本能であり、決して消し去ることはできない。また、性産業を一律に禁止すれば、それは働く人の権利の侵害ともなる。性産業で働くことで救われる人は大勢いるのだ。

「禁止」すれば、ボッタクリ店が増え、働く女性のリスクも高まる

とはいえ、借金のかたに働かされるなど仕事を強要されたり、人身売買の温床になったり、黒社会の資金源になるなど、性産業にはいろいろと問題がある。ただ、頭ごなしに禁止しても、こうした問題は解決しないだろう。禁止すれば、性産業は地下に潜ってしまい、当局の感知しえないところで問題が拡大するばかりだからだ。

この「頭ごなしの禁止」という、愚かな失敗を犯した自治体がある。東京都だ。

2004年、石原慎太郎都知事(当時)は「歌舞伎町浄化作戦」を開始し、治安対策と称して風俗店をバンバン摘発していった。私はニューズウィーク日本版のコラムで批判し、禁止ではなく適切な管理こそが唯一の解決策だと訴えたが、都知事が聞き入れることはなかった。どちらの主張が正しかったのか、今となっては明らかだ。

歌舞伎町から追い出された性風俗業者は近郊の街に移り、地下に潜っていった。ボッタクリ店も増え、被害を受けた客も多い。

性風俗従事者にとってもツライことばかりだ。店がなくなったため、街娼となった女性も少なくない。店に所属していれば定期的な性病検査があり、また一部の客が暴力を振るうようなことがあっても守ってもらえる。街娼となれば全てのリスクは自分次第なのだ。

この簡単な道理をなぜ都知事が分からなかったのか......。「美しい国に性風俗は不要」などというメンツだけの話だったのではないか。

中国も同じだ。清く正しい社会主義を標榜するなかで性風俗を認められずにきた。しかし今、静かに潮目が変わりつつあることを感じる。中国のナイトエコノミーの発展が一定レベルに達したとき、歴史的大転換が訪れるかもしれない。

そのときは「元・中国人、現・日本人」の私が、歌舞伎町で得た知恵でお手伝いすることができるだろう。


ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウ代表団、今週会合 和平の枠組み取りまとめ=ゼレ

ビジネス

ECB、利下げ巡る議論は時期尚早=ラトビア中銀総裁

ワールド

香港大規模火災の死者83人に、鎮火は28日夜の見通

ワールド

プーチン氏、和平案「合意の基礎に」 ウ軍撤退なけれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story