コラム

私事ですが、日中関係に翻弄されながら10周年を迎えました

2017年09月04日(月)16時58分

Newsweek Japan

<私が経営するレストラン「湖南菜館」がオープン10周年を迎えた。思い返せば、ただの中華レストランでなく、日中関係や中国の変化を映し出す鏡だった>

こんにちは、新宿案内人の李小牧です。私事ながらご報告させていただきたい。この夏、私が経営するレストラン「湖南菜館」がオープン10周年を迎えた。

老舗というにはまだほど遠いが、新宿の歌舞伎町一番街という激戦区で店を続けるのは容易なことではない。皆さんのご支援もあって、この街で看板を出し続けられていることに誇りを感じている。

この10年、いろいろなことがあった。店で繰り広げられた数々の人間ドラマはさておいても(笑)、この自分の"城"では日中のメディアから多くの取材を受けた。東日本大震災の日には、家に帰れず行き場を失った多くの人を招き入れ、朝まで過ごしてもらった(もちろん、自慢の湖南料理を食べてもらいながらだ)。

著書の出版記念パーティーを開いた時は、故・竹田圭吾ニューズウィーク日本版編集長(当時)にも出席してもらった。新宿区議選に出馬した際は、支持者やメディア関係者とここで開票速報を見守った。

先日、ニューズウィーク編集者のMくんとそんな思い出話をあれこれとしていたのだが、彼の言葉にはっとさせられた。「湖南菜館の10年って単なる個人的な経験じゃないですよね。日中関係や中国の変化を映し出す鏡なのではないでしょうか」というのだ。言われてみればそのとおりだ。

そこで、簡単ながら歌舞伎町一番街から見た、リアルな街場の日中関係論を開陳したい。

日中雪解けムードの時代、開店をサポートしてくれた大富豪

1988年に来日し、歌舞伎町案内人、すなわち歌舞伎町にやって来る外国人向けのガイドとして街に立ち続けていた私だが、ある1つの願いを持つようになっていた。それは自分の店が欲しいという思いだ。

著書『歌舞伎町案内人』(角川書店、2002年)がベストセラーになったこともあり、私は次第に日本国外でも知られるようになっていた。ならば街に立つのではなく、自分の店で旅行客が訪ねてくるのを待ったほうがいい。また故郷・湖南省の味を日本人にも知ってほしいという思いもあった。何より来日以来、約20年にわたり歌舞伎町の住人であっただけに、そろそろ自分の居場所が欲しいという気持ちが強かった。

ある新聞の取材でこの思いを吐露したところ、思わぬ反響があった。とある大富豪からレストラン開店をサポートしたいという申し出があったのだ。「あなたのような方に日中の架け橋になってもらいたい」という言葉に胸が熱くなった。

当時は第一次安倍政権の時代だ。約5年にわたり続いた小泉政権下での日中対立の時代がようやく終わり、日中の首脳が相互に訪問し合う雪解けムードに包まれていた。民間にもこの千載一遇の機会を生かして日中友好を推進したいと考える人は少なくなかった。かの大富豪もただ私を認めてくれたのではなく、日中友好の手助けをしたいという思いがあったように思う。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円、対ユーロで16年ぶり安値 対ドル

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ワールド

原油先物、1ドル上昇 米ドル指数が1週間ぶり安値

ビジネス

米国株式市場=続伸、マグニフィセント7などの決算に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story