コラム

李小牧の都知事選観察記、嵐を起こす「鉄娘子」に感服

2016年08月17日(水)18時50分

Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<新東京都知事の小池百合子氏は「正直、好みのタイプ(笑)」だが、それだけでなく中国語で言う「鉄娘子」であり、彼女のようなリーダーがこれからの日本に求められていると改めて感じた。昨年の新宿区議会選挙に立候補した李小牧が、参院選、都知事選、都議会議員補欠選と選挙尽くしの1カ月を終えて学んだこと>

 2016年7月は選挙尽くしの1カ月だった。7月10日の参議院選挙、そして31日の東京都知事選、東京都議会議員補欠選挙(新宿区選挙区)と3つの選挙があったのだ。昨年の新宿区議会選挙に民主党(現・民進党)推薦で出馬した私、李小牧にとっても大忙しの1カ月となるはず......だった。

 このコラムを読んでくださっている方ならばもうご存知だろうが、私は好奇心が旺盛だ。昨年は日本国籍を取得し、初めての立候補、初めての落選と、多くの"初体験"に胸を躍らせた。今度は初の選挙応援だと楽しみにしていたのだが、お声がかからない。

【参考記事】選挙に落ちたら、貿易会社の社長になれた話
【参考記事】歴史を軽視した革命思想から解き放たれ、初体験は55の夏

 都議会補選に出馬した民進党の猪爪まさみ氏には「なんでも協力します」と連絡し、選挙運動用法定葉書を送る仕事を依頼された。宛名書きについては知らない方も多いだろう。協力関係にある政治家の選挙葉書を自分の支持者宛に送るのだが、個人情報を手渡すことはできないため、相手先の事務所で一心不乱に宛名書きをするという地味な作業になることが多い。私も今回宛名書きをさせていただいたし、猪爪氏も昨年は私の事務所で数百枚の葉書に宛名を書いてくれた。

 宛名書きの他にも、応援演説でもチラシ配りでもなんでもやりたかったが、お声がかからないのでは仕方がない。そこで私は空いた時間を選挙研究に費やした。これまで作家、ジャーナリスト、コラムニストとして日本の選挙を追ってきたが、自分の選挙を経験すると意識がまったく変わる。「なるほど、立候補者が駅に入る時にはたすきをとるのか」といった小さな事柄(公職選挙法166条で駅構内や公共機関での選挙活動は禁止されている)に気がつき、細かい配慮や戦略がよく見えるのだ。この勉強を肥やしにしていきたいと思う。

【参考記事】都知事に都議会の解散権はない......が、本当に解散は不可能か?

鳥越俊太郎氏に感じた「それ以前の問題」

 多くを学んだが、ここではもっとも注目を集めた東京都知事選の主要3候補、鳥越俊太郎氏、増田寛也氏、小池百合子氏から学んだことを紹介したい。

 まずは鳥越俊太郎氏について。ぜひ街頭演説を聞きたいと思ったのだが、思わぬところに落とし穴があった。演説の回数も少ない上に、どこで街頭演説をするのか情報がさっぱり出てこないのだ。国政に関する話ばかりで都政について話さない、演説時間が短いなどと批判されていたが、いつやるかわからないのではそれ以前の問題だ。

 にわか選挙研究者と化した私はテレビや新聞、SNSで情報を収集していたが、それでもよくわからない。小池百合子陣営が翌日の日程をネットでわかりやすく公開していたのと対照的だった。これでは一般人にリーチすることは難しそうだ。8月11日付ハフィントンポスト日本版に掲載されたインタビューでは、「(ネットは)裏社会だと思っている」と断じていた鳥越氏だが、せめて告知ツールとしては有効活用するべきだったのではないだろうか。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

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