コラム

TBS「直撃!コロシアム‼ズバッと!TV」炎上で、出演者として言いたいこと

2016年05月30日(月)16時24分

 今となって考えれば、我ながら甘い判断だった。時代を先取りする「世界最大のシェア国家」だった昔はいざ知らず(今も建前上は社会主義だが......)、現在の中国人は自分の自転車に場合によっては2つも3つも鍵をかける。そうしないと簡単に盗まれるからだ。「共有」意識はとっくになくなり、中国の民法にも今や財産権がはっきり書かれている。日本人ほど神経質ではないものの、他人の財産を勝手に使ってはならないことはちゃんと理解している。


「他人は知らないが僕は大学生の時、ルームメートの物を借りる時には必ず事前にメールか電話で確認した。『窃盗』を『節約』と呼ぶなんて、もし僕が事情をよく知らない日本人ならきっと中国人を嫌いになる」

 ある中国書き込みサイトへの中国人の意見だが、まったくその通り。一方で、ほかの書き込みで中国人自身も認めているが、他人の物を使うことに彼らが日本人ほど敏感でないことも事実だ。例えば、マンションの駐輪場に誰かが自転車の空気入れを置いておいたとする。日本人なら勝手に使わず自分の空気入れを部屋に取りに帰るだろうが、多くの中国人はそこにある空気入れを使うだろう。使って減るわけではないし、そもそも誰の物か分からなければ連絡もできない。中国人はわざわざ空気入れを取りに自分の部屋に帰ったり、持ち主の連絡先をなんとか探そうとすることを非合理的だと考える。

 ただ、自転車と空気入れは違う。たとえどんな理由をつけたとしても、私の発言は「中国人は窃盗犯」というとんでもない主張を支持する内容でしかなかった。

私とタレントの段文凝さんに批判が集中した

 言い訳するわけではないが、番組で使われた私の発言は実質的にこの部分だけだ。台本では計7カ所で発言するよう指示されていたが、50人と日本人出演者が互いに罵声を浴びせ合うような議論を聞いていて不安になり、「打醤油」(編集部注:ダーチアンヨウ、香港タレントのわいせつ事件で、メディアにコメントを求められた市民が発した「俺は関係ない、醤油を買いに来ただけだ」という言葉がネットで流行。転じて「自分とは関係ない」という意味に転じたネット用語)な態度に徹した。残念ながら不安は的中し、番組を見た在日中国人留学生が放った怒りの火が中国ネット界に燃え広がり、出演者の中で最も中国で名前を知られている私に対して、中国人ネットユーザー7億人の(何十分の一かの)怒りの矢が一斉に放たれた......という次第だ。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米上院議員が戦争権限決議案、トランプ氏のイラン軍事

ビジネス

NTTドコモ、 CARTAHDにTOB 親会社の電

ビジネス

パリ航空ショー、一部イスラエル企業に閉鎖命令 イス

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story