コラム

ネット空間に溢れる「インプットなきアウトプット」の弊害

2023年03月03日(金)11時15分

論理的・科学的な問題解決を見いだすには、インプットとアウトプットのバランスを取ることが不可欠である。最近、そのための仕掛けが作られ、野心的な挑戦が始まった。その一つが、Polimill株式会社が提供するSNS「Surfvote」だ。

そこには、さまざまな政策や課題(イシュー)を知るだけでなく、自分の考えに基づいて投票し、自分の意見や立場を述べ、他の人の意見を傾聴し評価する仕掛けが組み込まれている。その目的は、「分断や対立や極化を助長するSNSではなく、異なる意見のなかから共通する価値観を見つけて合意が形成される」ことだという。

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Surfvoteのウェブサイト  (c)Polimill株式会社

例えば、「防犯カメラの増設に賛成か反対か?」というイシューでは、賛成側の理由と反対側の理由が提示され、それを踏まえた上で、「録画だけの防犯カメラでも、増設に賛成」「リアルタイムでモニタリングするなら、増設に賛成」「画像の不正利用を処罰するなら、増設に賛成」「プライバシーが侵害されるので、増設に反対」「犯罪防止効果が期待できないので、増設に反対」「防犯カメラの管理に関する法律がないので、増設に反対」という選択肢のいずれかに投票する。加えて、その選択肢に投票した理由を述べることもできる。

このように、Surfvoteはサイバー空間におけるディベートとしての色彩を帯びたシステムである。それは、とかくアウトプットが野放しになりがちなサイバー空間に、意図的に賛否両論からのインプットを組み込むことで秩序を回復しようとする試みなのかもしれない。こうした努力によって、サイバー空間が健全に成長していくことを切に願っている。

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プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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