コラム

帰宅途中で殺害されたサラさん 「女性が安心して歩ける環境が欲しい」と英国で抗議デモ続く

2021年03月18日(木)17時24分

15日、ロンドン・ウェストミンスターでも追悼イベントが行われ、数人が健康保護条例違反などの疑いで逮捕されている。また、各地でサラさんを追悼するため、一定の場所に献花する行為が今も続いている。

◇ ◇ ◇

筆者の体験を少々記しておきたい。

渡英前、筆者は友人たちに「地下鉄のエレベーターに男性と2人きりで乗ってはいけない」と厳しく注意された。「大袈裟だな」と思ったけれど、状況を見て「2人だけ」にはならないようにしている。

男性全員を「敵」と思っているわけではない。男性側、女性である自分側にとっても、互いを守る(加害者・被害者にならない)努力は必要と思い、そうしている。

電車やバスの車両の中で、自分と他者の2人だけになるという状況はほとんどあり得ないが、もしそうなった場合、お互いの目を見て安全を確認しあったり、携帯電話で家族と話したりなど、防御線を引く。

夜間の外出だが、こちらは夜暗くなる時間が早い。例えばスポーツクラブなどの帰りで午後5時を回ると、冬はすでにかなり暗い。そこで、帰り道はバスが通る、街灯がたくさんついている道を選んでいる。

家族からは「午後8時以降に駅から自宅に戻る時、タクシーを使いなさい」と言われている。時折タクシーを使っているが、バスが午後11時半ごろまで動いているので、最近はバスを使うことが多い。

夜間、タクシーもバスも使わず、歩いたことがあるが、明るい道ではあったものの、少年少女のグループがふざけながら道を歩いていて、アイスクリームを上着に付けられたことがある。

最近は、コロナ禍でイライラしている人も多いので、様々な形の攻撃を受けないように自衛することが大切だ。

ただ、サラさんの場合は、「夜遅くない時間」に、「街灯がついている場所」を「ほかの多くの人同様に」、「防寒用の衣類を身に着けた格好で」被害に遭った、しかも、相手は(もし容疑者が実行犯だとしたら)警察官であった。どれほど自衛しても、これではたまらない。相当にひどい。

「外を歩く」という、誰もがする行為の結果、犯罪の被害者となったサラさん。普段は性犯罪あるいはセクハラを避けるために気をはって外を歩いていた女性たちが、「これって、おかしい」と改めて気づいて、声を上げだした。不公平以外の何物でもない、と。

コロナ発生で外出禁止令が出てから、英国ではドメスティック・バイオレンスの報告例が多数出ている。働いている女性は自宅勤務となり、子供の勉強の面倒を見たり、食事を作ったりなど育児や家事の大部分をしょい込むことになった。

たまりにたまった不公平感が今回のサラさんの事件で一気に爆発した面もありそうだ。

事件をきっかけに、セクハラ・性犯罪を告発する「#MeToo」運動の新たな波が広がっている。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

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