コラム

英フィナンシャル・タイムズ記者が他紙のZoom会議を盗み聞き?

2020年05月08日(金)13時35分

正確かつ質の高い報道で知られる英国の経済紙フィナンシャル・タイムズ Shannon Stapleton-REUTERS

<英名門紙の記者が、ライバル紙のZoom会議を盗み聞きするという事件が起こった。新型コロナウイルスの流行で世界で幅広く使われるようになったZoom。いったいどうやって侵入し、どうやって発覚したのか>

米国のウオール・ストリート・ジャーナル紙と並ぶ、経済・金融の専門紙として知られる、英国のフィナンシャル・タイムズ(FT)。2015年以降は、日本経済新聞社の傘下にある。

その報道の正確さ、質の高さで信頼度が高い新聞だが、27日、気にかかるニュースが出た。

Zoom会議を盗み聞き?

英左派系高級紙インディペンデントによると、同紙及びその姉妹紙となる夕刊紙「ロンドン・イブニング・スタンダード」の経営陣・編集幹部は、新型コロナウイルスによる感染拡大を受けての社内の対応について、会議ソフトZoomを使ってスタッフに伝えた。

FTのメディア担当記者マーク・ディ・ステファノ記者は、両紙のスタッフが会議で人員削減などの決定を知るとほぼ同時にツイッターでその内容を拡散。イブニング・スタンダードの人員削減などのニュースは記事化し、電子版のみのインディペンデントの対応はライブ・ブログで紹介した。

インディペンデントやほかの複数の新聞などによると、記者は一連のZoom会議を「盗み聞き」していたという。

kobayashi_ft2.jpg

デ・ステファノ記者が伝えた、イブニング・スタンダード紙の人員削減の記事(4月1日付、フィナンシャル・タイムズのウェブサイトより)


インディペンデントが持つZoom会議のログ・ファイルによると、先週、インディペンデントのZoom会議にデ・ステファノ記者のFTのメールアカウントを使って登録した人が、16秒間出席していた。その人物は動画カメラをオフ状態に設定していたため、会議の主催者は同氏の顔を見ることはできなかったが、インディペンデントの記者の中にはデ・スティファノ記者の名前が一瞬表示されるのを見たという人もいる。

数分後、別のアカウントで参加した人物がいたという。一貫して、動画カメラはオンにせず、音声のみでの参加だった。

会議が終わった後で、このアカウントが記者の携帯電話に関連付けられているものだったことが分かった。

そこで、インディペンデント紙はFTの編集幹部に連絡を取ったという。

ディ・ステファノ記者は、4月1日、イブニング・スタンダード紙での一時解雇措置を記事化したが、インディペンデントによると、この時も、デ・ステファノ記者に関連したアカウントを使った人物がスタンダード紙のスタッフ向け動画会議にアクセスしていた、という疑惑を報道している。この動画会議では、元財務相のオズボーン編集長が一時解雇措置を発表していた。

筆者はこの記事を以前に読んでいたが、「会議に出席した人から話を聞いたのだろう」と思っていた。

左派リベラル系高級紙ガーディアンの取材に対し、インディペンデントのクリスチャン・ブロートン編集長はこう語る。

「言論の自由は尊重するし、ニュースの収集に苦労があることは理解している。しかし、スタッフ向けの説明の機会に第3者のジャーナリストが入ることは不適切だと思う。従業員のプライバシーの侵害でもある」。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インドネシア中銀、ルピア圧力緩和へ金利据え置き 2

ビジネス

MS&AD、純利益予想を上方修正 損保子会社の引受

ワールド

アングル:日中対立激化、新たな円安の火種に 利上げ

ビジネス

農林中金の4ー9月期予想上振れ 通期据え置きも「特
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story