コラム

竜巻に巻き込まれ、地中海で豪華ヨットが沈没...「英国のビル・ゲイツ」も行方不明

2024年08月20日(火)19時08分
「英国のビル・ゲイツ」マイク・リンチが行方不明

行方不明になっているマイク・リンチ氏(2019年3月) Henry Nicholls-Reuters

<近代的な設備を備えた大型ヨットをあっという間に沈没させる危険な気象現象「ウォータースパウト」とは?>

[ロンドン発]8月19日未明、イタリアのシチリア島沖で豪華ヨット「ベイジアン号」(全長56メートル)が竜巻に巻き込まれて沈没。乗客乗員22人のうち1人が死亡、6人が行方不明となった。「英国のビル・ゲイツ」と呼ばれる実業家マイク・リンチ氏も消息を絶った。

■【動画】不気味すぎる...フロリダの海上に現れた巨大な円柱「ウォータースパウト」の姿

行方不明者には米金融大手モルガン・スタンレー・インターナショナルのジョナサン・ブルーマー会長と妻のジュディさんも含まれている。

リンチ氏が仕事仲間のために企画したイベントで、リンチ氏の妻アンジェラ・バカレスさんは救出されたものの、18歳の娘ハンナさんは依然として見つかっていない。豪華ヨットの名はリンチ氏の博士論文に使われた「ベイズの定理」に由来する。

リンチ氏は英ソフトウェア会社オートノミーの共同設立者で、110億ドルで米ハイテク大手ヒューレット・パッカードに売却。2012年、88億ドルの評価減が発表され、法廷闘争が続いていた。リンチ氏は6月、米国で電信詐欺、証券詐欺、共謀すべてについて無罪判決を受けたばかり。

詐欺事件の共同被告も交通事故死

奇しくもベイジアン号が沈んだのと同じ日、詐欺事件の共同被告であるスティーブン・チェンバレン氏が8月17日にケンブリッジシャーでランニング中に車にはねられて死亡していたことが弁護士によって確認された。これも何かの因縁なのか。

イタリアのANSA通信によると、竜巻に巻き込まれた時、ベイジアン号はアンカーを下ろしていた。世界で最も高い72メートルものアルミニウム製マストが折れ、ヨットはバランスを失って沈没した。海や湖、河川の上で発生する「ウォータースパウト」が原因とみられる。

ウォータースパウトは熱帯・亜熱帯地域で最も観測されるが、条件が整えば他の地域でも発生する。積雲や積乱雲から水面に向かって空気と霧状の水滴の柱が渦を巻くように伸びる。多くの場合、発達中の積乱雲内で急速に回転する渦(メソサイクロン)から始まる。

ウォータースパウトはどのように発生するのか

水面付近の暖かく湿った空気と上空の冷たい空気の組み合わせによって引き起こされ、不安定性と空気の上昇をもたらす。暖かい空気が上昇すると、コリオリ(地表面上の流体の移動方向が少しずつ曲がっていく)効果やその他の局地的な風のパターンによって回転し始めることがある。

回転はより暖かく湿った空気が引き込まれるにつれて強まり、目に見える漏斗雲を形成する。漏斗雲は水面に向かって下向きに伸び、水面に触れると完全なウォータースパウトとなる。水しぶきの中の低気圧によって水面から水が吸い上げられる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、政府閉鎖の

ワールド

ハマスに米ガザ和平案の受け入れ促す、カタール・トル

ワールド

米のウクライナへのトマホーク供与の公算小=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story