コラム

スロバキア首相、「暗殺未遂」から回復の情報...「復讐」は野党やメディアに向けられる

2024年05月29日(水)17時02分

偽情報マシーンは危険な陰謀論をまき散らしている

英紙ガーディアン(5月16日)は「スロバキアのジャーナリストは首相暗殺未遂が同国の分断と独立系メディアの弾圧につながることを恐れている」と報じている。スメルに所属する国民議会副議長は「これはあなた方のせいだ」と野党政治家と独立系メディアを非難した。

フィツォ首相が「報道の自由」を規制しようとしていると独立系メディアが警戒を強める中、銃撃事件は起きた。同副議長は「リベラルなメディアのせいで、スロバキア現代史における最も重要な政治家である首相の命が危険にさらされた」と野党とメディアに責任をなすりつけた。

スロバキアを代表する出版社の上級編集者はガーディアン紙に「政治家が責任ある行動をとり、感情を静めてくれると信じたいが、スメルの何人かの事件後の発言から彼らが社会を分断させ続けるのではないかと心配している」と語っている。

スロバキアに詳しい英大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのミハエル・オヴァーデク講師(欧州政治)はX(旧ツイッター)に「暗殺未遂の余波を見ていると不安になる。閣僚は明示的に、あるいは暗にメディアや野党に責任を押し付け、分断を煽っている」と投稿した。

フィツォ首相の回復後、欧州の新たな火種に?

「犯人に関する情報は野党と結びつけようとする形でリークされた。一部ロンドンに拠点を置く偽情報マシーンは危険な陰謀論をまき散らしており、政府のバックアップを受けている。さらなる暴力のための格好の状況が醸成されているように見える」とオヴァーデク講師は分析する。

「暗殺未遂が政治的レトリックの緩和につながるかどうかが大きな問題だが、私は懐疑的だ。憎悪と分断のメッセージはスメルとソーシャルメディアの生命線だからだ」とオヴァーデク講師は暗殺未遂がメディア・市民社会・野党弾圧の口実に使われることを懸念する。

スロバキアとハンガリーは欧州連合(EU)によるウクライナへの500億ユーロの追加支援に最後まで難色を示した。フィツォ首相は「ウクライナは世界で最も腐敗した国の一つだ。われわれは過剰な財政支援を行っている」と主張した。

英紙フィナンシャル・タイムズ(5月20日)も「フィツォ首相が回復したら、批判を封じ込め、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相をさらに模倣しようとする恐れもある」と警戒する。フィツォ首相は自反するのか、復讐の鬼と化すのか。欧州の新たな火種になる危険性がある。

ニューズウィーク日本版 脳寿命を延ばす20の習慣
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月28日号(10月21日発売)は「脳寿命を延ばす20の習慣」特集。高齢者医療専門家・和田秀樹医師が説く、脳の健康を保ち認知症を予防する日々の行動と心がけ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市政権の経済対策、物価高・成長投資・安保柱に策定

ワールド

北朝鮮が短距離弾道ミサイル発射、5月以来 APEC

ワールド

ステランティス、米ミシガン工場が稼働停止 アルミ生

ワールド

独メルセデス、ネクスペリアの動向注視 短期供給は確
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story