コラム

「日本の技術は最前線にいる」と専門家...CO2を「回収・貯留・有効利用」するCCUS技術に環境団体は反発も

2023年12月16日(土)14時39分
CCUSのイメージイラスト

wasanajai/Shutterstock

<COP28で脱化石燃料への道筋として明記されたCCUS。その実情を英オックスフォード大学のマイルズ・アレン教授に聞く>

[ドバイ発]アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は会期を1日延長した13日、「2050年までにネットゼロ(実質排出ゼロ)を実現するのに重要なこの10年に公正かつ公平で秩序だった形で化石燃料から脱却する」と合意して幕を閉じた。世界はネットゼロに向けエネルギー転換の道筋を描いた。

「脱化石燃料」を明記したCOP28合意にはその道筋が列挙されている。

・30年までに再生可能エネルギー発電容量を3倍、エネルギー効率の改善率を世界平均で毎年2倍にする。
・排出削減対策を講じていない石炭火力発電を段階的に削減する努力を加速する。
・21世紀半ばまでにゼロ・低炭素エネルギーを利用した排出ゼロのエネルギーシステムに向け努力を加速する。
・再エネ、原子力、特に削減が難しいセクターではCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)のような削減・除去技術、低炭素水素を加速する。
・30年までにメタンを含む二酸化炭素以外の温室効果ガスを削減する。
・ゼロ・低排出車やインフラを急速に普及させることで道路交通の排出量の削減を加速する。
・非効率な化石燃料補助金を段階的に削減する。

環境団体から反発が出ているのが「CCUS」と「原子力」が明記されたことだ。国際的シンクタンク、グローバルCCS(二酸化炭素回収・貯留)インスティテュートの調査によると、CCSプロジェクトは世界で急増。現在稼働中の41カ所のCCSの二酸化炭素回収能力は年間4900万トン。26カ所が建設中で、325カ所がさまざまな開発段階にある。

米国が優勢で、英国、カナダ、中国も施設数を増やす。しかし自然エネルギーを促進する自然エネルギー財団(孫正義会長)は「CCS への過剰な依存を進めるエネルギー政策がもたらすのは日本の脱炭素化の失敗だ。日本は不完全な CCS の実施に多額のコストの支出を強いられ、回収・貯留できなかった二酸化炭素排出権の対価の支払いを求められる」と釘を刺す。

しかし大気中の炭素回収を提唱する英オックスフォード大学のマイルズ・アレン教授(地質システム科学)は「化石燃料の使用を減らし、安全で恒久的な二酸化炭素の処理を拡大しなければならない。二酸化炭素をすべて地下に回収することで人類は2100年以降も化石燃料を使い続けることになる」と話す。

COP28の日本パビリオンではCCUS技術に携わる三菱重工グループがその仕組みを説明していた。CCUSにおける二酸化炭素のバリューチェーンを「とる」「つなぐ」「つかう」の3つの枠組みに整理し、「とる」ではすでに世界で13基の商用機納入実績がある。COP28会場でアレン教授にCCS/CCUSについてインタビューした。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、クックFRB理事を異例の解任 住宅ロー

ビジネス

ファンダメンタルズ反映し安定推移重要、為替市場の動

ワールド

トランプ米政権、前政権の風力発電事業承認を取り消し

ワールド

豪中銀、今後の追加利下げを予想 ペースは未定=8月
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story