コラム

住む家を追われ、食糧支援で飢えをしのぐ...ロンドンの小学校では大半が「ホームレス児童」という英国の異常事態

2023年10月24日(火)19時35分

餓えをしのぐため集団万引きが多発

英フードバンク「トラッセル・トラスト」は過去12カ月間で過去最高の298万6203個(前年比37%増)の緊急食料セットを配布した。113万9553個は子どもたちに配られ、初めてフードバンクを利用した人は76万人にのぼった。英国で7人に1人が、お金がないため食料品を買えずに飢餓に直面している。

「家族を養うためにフードバンクに頼らざるを得ない。しかし、これは氷山の一角に過ぎない。さらに何百万人もの人々が飢えに苦しんでいる。世界でも豊かな国の一つであるはずの英国でフードバンクに頼ることは解決策ではない。食料品や生活費を自分でまかなうことができるようになる社会保障制度が必要だ」とエマ・レヴィCEO(最高経営責任者)は言う。

こうした「生活費の危機」の中で激増しているのが万引きだ。6月までの1年間にイングランドとウェールズで警察が記録した万引きは36万5164件で前年同期比25%増。19年6月までの1年間に36万8745件の万引きが記録されたことがある。万引きは必ずしも警察に報告されるとは限らないので実際の件数はもっと多い可能性がある。

英国では14年の法改正で200ポンド(約3万6600円)以下の万引きは軽犯罪として扱われるようになり、警察は積極的に捜査しなくなった。野放しになった万引きは「闇ビジネス」となり、不良グループが犯罪組織から「買い物リスト」を入手して人気のアルコールや粉ミルク、お菓子、肉類など売りさばける商品をごっそり持ち去っていくようになった。

BBCによると、警察当局は専門アナリストと警官によるチームを結成し、イングランドとウェールズで集団万引きに関与している犯罪組織の情報を収集する。顔認識システムを活用して万引き犯を絞り込む。ジョン・ルイス、テスコ、生協を含む13の小売業者グループは万引き対策に2年間で約80万ポンド(約1億4600万円)を拠出する。

筆者宅近くのスーパーチェーン「テスコ・エクスプレス(小型店)」も会計コーナーがアクリル板で完全に覆われた。後ろに置かれた高級酒やタバコの高額商品を集団万引きから守るためだ。略奪防止と言った方が適当だ。コロナ、ウクライナ戦争と前代未聞の事態が続いたとは言え、13年を超える保守党長期政権の責任は重いと言わざるを得ない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アップル、見通しさえず株下落 第4四半期は予想上回

ワールド

米裁判所、マスク氏訴訟の手続き保留を決定 大統領選

ワールド

北朝鮮、31日発射は最新ICBM「火星19」 最終

ワールド

原油先物、引け後2ドル超上昇 イランがイスラエル攻
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後はさらなる「倒産増加」が予想される
  • 2
    「まるで睾丸」ケイト・ベッキンセールのコルセットドレスにネット震撼...「破裂しそう」と話題に
  • 3
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 4
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 5
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 6
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 7
    天文学者が肉眼で見たオーロラは失望の連続、カメラ…
  • 8
    中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布さ…
  • 9
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 10
    自爆型ドローン「スイッチブレード」がロシアの防空…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 5
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 7
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 8
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 9
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 9
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story