コラム

「台湾は自由の灯台だ」...対中国の最強硬派、前トラス英首相の台湾訪問が重要な理由

2023年05月12日(金)17時32分

「いわゆる『統一』は習政権の核心的プロジェクトだ。2021年の習氏の言葉を思い起こそう。『祖国の完全な統一という歴史的任務は果たされなければならないし、必ず果たされる』。市民の自由と人権がしばしば抑圧される世界において、台湾は自由の灯台だ。私たちは台湾との関係を強化するためにできる限りのことをすべきだ」

トラス氏は、北大西洋条約機構(NATO)と太平洋の同盟国との間のさらに緊密な協力と、より発展した太平洋防衛同盟を提案した。日本と英国は今年1月、日英部隊間協力円滑化協定に署名するなど、防衛協力を強化している。日英伊3カ国は次期戦闘機を共同開発することで合意した。

先進7カ国(G7)と欧州連合(EU)は貿易方法、投資先、輸出する技術を決定できる影響力を利用して「経済版NATO」として機能する必要があるとトラス氏は唱える。サプライチェーン、投資、貿易に焦点を当て、重要な鉱物とサプライチェーンは信頼できるサプライヤーを確保するために協力すべきだと強調している。

「貿易を人質に、中国にいじめられる国の保護を」

英国はすでにウラジーミル・プーチン露大統領の戦争マシーンに資金を供給するロシアのエネルギーを排除し、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の機器を次世代通信規格5Gネットワークに設置することを禁止した。中国にサプライチェーンの元栓を閉められないよう半導体や最先端テクノロジーの経済安全保障分野で西側諸国の協力は不可欠だ。

投資については、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗するため、G7は「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」を立ち上げた。トラス氏は中国がいまだに世界貿易機関(WTO)で途上国として位置付けられていることに疑義を唱える。それを隠れ蓑に中国は透明性に関する通常のルールに従わず、攻撃的な行為についての責任を免れているという。

トラス氏は「貿易が強制ではなく自由のための力であることを保証するために協力すべきだ。自由な世界は台湾との2国間貿易と投資の拡大を求めるべきだ。貿易を人質にいじめられる国の保護に駆けつけるべきだ。1カ国が標的にされた時に力を合わせられるメカニズムを構築するという日本の努力を支持する」との立場を表明している。

トラス氏は外相だった昨年6月、ロシア軍のウクライナ侵攻を受け「もっと早くからウクライナに防衛兵器を供給しておくべきだった。私たちは台湾のためにその教訓を学ぶ必要がある」と台湾への武器供与を示唆した。しかし首相になった後、この立場を撤回している。リシ・スナク現英首相は北京に対してより現実的なソフト路線をとっている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化

ビジネス

デジタルユーロ、大規模な混乱に備え必要=チポローネ

ビジネス

スウェーデン、食品の付加価値税を半減へ 景気刺激へ

ワールド

アングル:中ロとの連帯示すインド、冷え込むトランプ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story