コラム

中国は警戒を露わに...AUKUSによる豪への「原潜」協力は、本当にコストに見合うか

2023年03月15日(水)11時53分

「英国は国際社会での影響力を維持するため、中国に厳しい態度を示している。中国と英国間の協力は既存のものも潜在的なものも含め、その規模は非常に大きい。英国政府が中国に挑発的な態度を取り続ければ、協力分野に影響が出る可能性が高く、スナク氏はそれを考慮する必要がある」(環球時報)と釘を刺す。

環球時報は別の記事で「AUKUSは諜報活動や量子技術から巡航ミサイルの取得に至るまで3国間の情報・技術交換を約束している。オーストラリアは自国とこの地域の平和に対して『時限爆弾』を仕掛け、高価な代償を払うことになるかもしれない。 AUKUSの原潜契約は米国の覇権主義に奉仕するだけだ」という専門家の声を伝えている。

「バイデンは原潜契約にコストがかかることを自覚すべき」

米紙ニューヨーク・タイムズは米科学者連盟のアダム・マウント上級研究員と元米国防総省職員ヴァン・ジャクソン氏の寄稿を掲載し、「AUKUSは米国がアジアに軸足を移すための大きな一歩となるが、ジョー・バイデン米大統領は潜水艦の契約にはコストがかかることを自覚すべきだ」と警鐘を鳴らした。

「AUKUSにより、オーストラリアは自国領土に米国の爆撃機を受け入れることを検討し、先進的なミサイルにアクセスできるようになり、新しい潜水艦の艦隊を動かすための原子力推進技術を受け取ることになる。しかしこの協定が、中国がもたらす安全保障上の課題に対処するのに役立つかどうか、コストに見合うだけの価値があるかどうか明らかではない」

米国防総省の内外で行われた机上演習では、中国の軍備増強によって北京が台湾を支配する能力が高まっていることが明らかになった。台湾有事では、中国が台湾周辺で武力を行使するのに比べ、米国とその同盟国にとっては数千マイル離れていても作戦を展開するのは難しい。米国と同盟国の艦船は少なすぎるし、中国のミサイル攻撃に脆弱だからだ。

両氏は「中国近辺で中国の軍事力を圧倒する可能性の低い高価なシステムよりも、長距離防空ミサイルや対艦ミサイルなど中国の軍事力投射能力を阻止する費用対効果の高い方法に投資する必要がある。軍事力が解決策にならない場合に備えて、中国による台湾侵略の経済的・外交的コストを高める努力をすべきだ」と提言している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

AI端半導体「ブラックウェル」対中販売、技術進化な

ワールド

チェイニー元米副大統領が死去、84歳 イラク侵攻主

ビジネス

リーブス英財務相、広範な増税示唆 緊縮財政は回避へ

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story