コラム

「はったりではない」との核の脅しも動員令も、プーチンが「負け戦」を認識した証拠

2022年09月22日(木)10時48分
プーチン演説

ウクライナ軍の大規模な反攻を受けてロシアの動きが切迫している Sputnik/Pavel Bednyakov/Pool via REUTERS

<NATOに対して再び核の脅しを持ち出し、脱走などの厳罰化や部分動員によって兵員不足を解消しようとしているのはプーチンの焦りの表れだ>

[ロンドン発]ウクライナ軍に追い詰められたロシアのウラジーミル・プーチン大統領は21日、国民向けビデオ演説で「領土保全への脅威が生じた場合、利用可能なあらゆる兵器システムを使用する」と改めて核の脅しを振りかざし、「特別軍事作戦」を継続するため「部分動員に関する国防省と参謀本部の提案を支持」して兵員不足を解消する方針を示した。

プーチン氏はこの日の演説で「キーウ政権が東部ドンバス問題の平和的解決を拒否し、核保有への野心をあらわにした。ドンバスやクリミア(筆者注、ロシアが占領)などロシアへの攻撃が避けられなくなった」と戦争責任をウクライナになすりつけた。さらに「ワシントン、ロンドン、ブリュッセルは核の威嚇に手を染めている」と非難するデタラメを繰り返した。

「米欧が(ウクライナ軍に)奨励するザポリージャ原発への砲撃は核災害を引き起こす恐れがある。それにとどまらず北大西洋条約機構(NATO)主要国の高官はロシアに対し大量破壊兵器、すなわち核兵器を使う可能性について言及し、容認している。ロシアにもさまざまな兵器があり、中にはNATO諸国が保有する兵器よりも近代的なものもある」(プーチン氏)

「領土保全への脅威が生じた場合、ロシアと国民を守るため、われわれは利用可能なあらゆる兵器システムを必ず使用する。これはハッタリではない。祖国の領土保全、独立と自由は、利用可能なすべてのシステムによって防衛されている。私たちに対して核の威嚇を使う人たちは風向きが変わることがあることを知るべきだ」と強調した。

命令に従わない部隊の処罰を拡大

米国防総省によると、ロシア軍は、ウクライナ軍の大規模な反攻が始まる前の8月時点ですでに最大8万人の死傷者を出したとされる。兵員不足を解消するには総動員が不可欠と指摘されてきたが、プーチン氏はこの日「軍隊に勤務し、特定の職業軍人的専門性とそれに対応する経験を有する者を中心とする予備役(30万人)が動員されることになる」と説明した。

プーチン氏はすでに部分動員に関する大統領令に署名、これはロシア連邦議会に通知され、21日から動員が開始される。動員された予備役は契約に基づく軍人の地位、給与支払い、すべての社会的給付が与えられる。所属部隊に配置される前に追加訓練を受けなければならない。防衛産業の責任者は、武器と装備の増産目標を達成する直接的な責任を負うという。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米軍、イラン機雷敷設船28隻を破壊=トランプ氏

ワールド

IEAが備蓄協調放出で合意、過去最大の4億バレル 

ビジネス

米CPI、2月前年比+2.4%上昇 3月のインフレ

ワールド

米、イラン関与の攻撃を警告 イラクの米石油施設・ホ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 5
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 6
    「邪悪な魔女」はアメリカの歴史そのもの...歌と魔法…
  • 7
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 8
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 9
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 10
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 5
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story