コラム

「はったりではない」との核の脅しも動員令も、プーチンが「負け戦」を認識した証拠

2022年09月22日(木)10時48分

英国防情報部によると、ロシアが占領する東部ドネツク、ルハンスク、南部ヘルソン、ザポリージャ各州の占領当局者は20日、ロシア連邦への加盟に関する住民投票を実施すると発表した。これら住民投票はロシア軍がウクライナに侵攻する前にロシア連邦議会が「ドネツク人民共和国」と「ルハンスク人民共和国」を承認したことを受けたものだ。

ロシア側の動きが切迫しているのは、ウクライナ軍の大規模反攻が迫っていることへの恐れとロシアの一部に組み込まれた後により高い安全性への期待があるからだという。また、ロシア連邦議会は9月20日、脱走、徴兵命令の拒否、不服従に対する処罰を劇的に強化する法改正を行った。自主的な降伏を犯罪とし、降伏を10年の禁固刑に処するという。士気低下で後を絶たない脱走や命令拒否に歯止めをかけるのが狙いだ。

「性急な動きはプーチンの強さではなく弱さの現れ」

英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)ロシア・ユーラシアプログラムのニコライ・ペトロフ上級研究員は「プーチンの演説は、帝国主義戦争を愛国戦争に変えようとする試みだ。ウクライナの占領地における予想を上回る性急な住民投票の動きは、クレムリンが軍事的には不可能になった領土獲得を政治的に実現しようとするものだ」と解説する。

「プーチンが最近、会談した中国やインドなど非米欧諸国の首脳が長引く戦争への不満や終結を公然と訴えたことが影響している。クレムリンはスターリン時代のやり方を受け継ぎ、動員逃れ、戦闘拒否、脱走に対する罰則を強化した。政権による抑圧が高まるのは必至だ。ゲームを根本的に変え、賭け金を上げることは、プーチンの強さではなく弱さの現れだ」

同ウクライナフォーラム代表オリシア・ルツェビッチ氏は「プーチンの戦争目的である東部奪取を後押しするためのなりふり構わぬ動きだ。ロシアはドンバスで週1キロメートルのペースで前進しており、占領を維持し攻撃を強化するにはより多くの人員が必要だ。部分動員は決定的な影響を与えない」と分析する。

同上級コンサルティング研究員キール・ジャイルズ氏は「プーチンの緊急措置はロシアが植民地拡大戦争で負けていることを認識していることを示している。演説にはおなじみの核兵器の脅しも半分含まれており、米欧の指導者たちにウクライナへの支援を緩める口実を与えるためのものだ」と指摘する。

プーチン氏の「言い訳」を信じるのは、ロシアが垂れ流すプロパガンダを鵜呑みにするのと同じである。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、10%の代替関税に署名 最高裁の違憲判

ワールド

トランプ氏、10%の代替関税に署名 最高裁の違憲判

ワールド

アングル:米相互関税に違憲判決、世界経済の先行き依

ワールド

アングル:米相互関税に違憲判決、世界経済の先行き依
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由...「落葉帰根」派も「落地生根」派も
  • 4
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 5
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 6
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 7
    ディープフェイクを超えた「AI汚染」の脅威──中国発…
  • 8
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 6
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 9
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 10
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story