コラム

イギリスを襲った史上最強の「熱波」...社会・経済を押しつぶす「真のコスト」は?

2022年07月20日(水)17時21分
バッキンガム宮殿の衛兵

水分補給するバッキンガム宮殿の衛兵(7月18日) John Sibley-REUTERS

<イギリスの「空の玄関口」ヒースロー空港でも40.2度を記録するなど、従来の最高気温の記録が一気に塗り替わる異常事態>

[ロンドン発]英イングランド東部リンカンシャー州コニングスビーで19日午後4時、英史上最高の摂氏40.3度を記録した。これまでは2019年7月にケンブリッジで観測された38.7度がイギリスの最高気温だったが、計34カ所で記録を一気に更新した。ヒースロー空港でも午後零時50分に40.2度を記録するなど、ロンドンの他の場所でも40度を突破した。

英大衆紙デーリー・メールや英BBC放送によると、教師たちは「蒸し暑い教室で授業を行うのは不可能だ」と訴え、171校以上が休校になった。病院では手術室がオーブンの中のように「熱く」なり、緊急性のない手術はキャンセルされた。郵便配達員は熱中症予防のため配達に出るのを止めて、室内で未配達の郵便物の仕分けを行った。

これだけ暑くなると恐いのは鉄道事故。レールが延びたり、電線が垂れ下がったりして大事故につながる恐れがある。このため運行本数を減らしたり運休にしたりする緊急対策がとられ、ダイヤは終日、大混乱した。熱中症による死亡や水の事故も全国的に相次いだ。ロンドンの最高裁判所ではエアコンが故障し、傍聴はオンラインのみに制限された。

イギリスで40度超えを記録したのはこの日が初めて。文字通りの記録的な暑さに、扇風機の需要が50倍に増え、ペットボトルの飲料水、アイスキャンディー、缶入りカクテルが飛ぶように売れた。ロンドンでは草むらの火災や山火事が急増して黒煙が街を覆い、ロンドン消防局は「重大事態」を宣言して消火活動に当たった。

英気象庁「イギリスで40度を観測する可能性は最大10倍に」

英気象庁のニコス・クリスティディス博士は「気候変動はすでにイギリスで気温が極端に上昇する可能性に影響を与えている。イギリスで40度を観測する可能性は、人間の影響を受けていない自然な気候と比較して最大10倍にもなる。イギリスのどこかで40度を超える可能性も急速に高まっている」と警鐘を鳴らす。

現在の温室効果ガス排出量削減目標を実行に移したとしても、2100年ごろには15年ごとにこのような極端な現象が起こる可能性があるという。英気象庁の研究では、イギリスのどこかで40度を超える日がある夏は、現在100~300年ごとに起こり得るが、22世紀に入る頃にはその間隔は15年ごとに縮まっている可能性がある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story