コラム

9日にプーチン勝利宣言? ゼレンスキー「それでもマリウポリは絶対に陥落しない」

2022年05月07日(土)16時06分
マリウポリ市民の墓

マリウポリで戦闘に巻き込まれて犠牲になった市民の墓 Alexander Ermochenko

<ウクライナのゼレンスキー大統領が率直に語ったマリウポリの悲劇的な現状と、自国にとっての「勝利」の定義、そして他国に望むこと>

[ロンドン発]ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「勝利宣言」を想定していた5月9日の対独戦勝記念日が迫る中、徹底抗戦するウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がトレードマークの「緑の戦闘服」で6日、英有力シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)のZOOMイベントで参加者の質問に答えた。

ロシア軍に包囲されるウクライナ南東部マリウポリの製鉄所アゾフスターリの地下に子供20人を含む約200人の市民が身を潜めている。ゼレンスキー氏は「市民を救うために私たちは外交的解決策を模索し、それを実現するため赤十字や国連と協力して人道的回廊を整えようとしている。しかしロシア軍は民間人も軍人も同じように扱っている」と説明した。

「マリウポリの包囲戦は飢餓による拷問だ。誰も食料を手に入れることができない。すべての国際機関がその地域に入ることを禁止され、飲料水すら供給できない。ロシア軍に包囲されていない市民はロシアからいかなる食料や水を供給されてもプールの水を飲むことを選ぶだろう」と表情を曇らせた。

「ロシア軍は獣のように振る舞っている。これがロシア軍のウクライナ市民の取り扱い方だ。その残酷さには誰しも打ちのめされるだろう。死は戦争によって引き起こされるのではない。市民は拷問によって命を落としている。これはテロと憎悪そのものだ。非人道的で卑劣な扱い、拷問に責任を負うのは誰か。軍ではない。プロパガンダ機関に責任がある」と指摘する。

220507kmr_zch02.png

ZOOMを通じて参加者の質問に答えるゼレンスキー氏(筆者がスクリーンショット)

「銃を撃つ前にデマとプロパガンダが憎しみを作り出した」

ゼレンスキー氏によると、ウクライナに対する本格的な戦争が始まる前にロシアのプロパガンダ機関は憎悪を煽り、過熱させた。「両国は少し前まで良き隣人で、共通した歴史と家族を持ち、互いに混在していた。それが拷問に行き着いた。銃を撃つ前にデマとプロパガンダが憎しみを作り出した。それが一番怖い。人間がやったことの中で最も恐ろしいことだ」

マリウポリが陥落した場合、戦争の行方にどんな影響があるのかという問いには「ロシアは9日に勝利パレードをしたいはずだ。しかしマリウポリは絶対に陥落しない。ヒロイズムではない。陥落するものは何もないからだ。すでに都市は完全に破壊されている。製鉄所がわずかに残っているだけだ。彼らが残された市民を虐殺すれば外交手段はなくなる」と語気を強めた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

欧州司法裁、同性婚の域内承認命じる ポーランドを批

ワールド

存立危機事態巡る高市首相発言、従来の政府見解維持=

ビジネス

ECBの政策「良好な状態」=オランダ・アイルランド

ビジネス

米個人所得、年末商戦前にインフレが伸びを圧迫=調査
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story