コラム

日本が得意とする「メルトダウンしない小型原子炉」の開発で先駆ける世界

2022年02月12日(土)21時44分

英政府の助言機関、原子力イノベーション研究事務局が各種の先進モジュール式原子炉(AMR)を評価した報告書では、ナトリウム冷却高速炉や超臨界圧軽水冷却炉、ガス冷却高速炉、鉛冷却高速炉、溶融塩原子炉といった他の方式に比べ、高温ガス炉は安全性やセキュリティー面の評価が最も高く、総合評価も断トツの1位だった。「さらなる開発と実証で2050年実質排出ゼロに素晴らしい貢献ができるだろう」と太鼓判を押してもらった。

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高温ガス炉モックアップの上部(筆者撮影)

この日公開された高温ガス炉は高さ16メートル、重量120トン、設置部分の面積400平方メートルで、大部分は地中に埋設される。PWR(同1.74平方キロメートル)で9~12年、英ロールス・ロイス製の小型原子炉(同4万平方メートル)で4年、建設に要するが、モジュール数が10に満たない高温ガス炉は2年未満。「石炭火力は摂氏350度だが、高温ガス炉は750度の熱を出す。水素製造だけでなく、脱炭素化を目指す製鉄、セラミックス、セメント、グラス、製紙、化学にも活用できる」(ウィットワース氏)。

送電網がない僻地でも電力できる

現場によって熱出力150メガワットの高温ガス炉を1基設置するよりも50メガワットの炉を3基設置した方が良いケースもある。このため熱出力250メガワットまでの範囲で、十分な余裕を持って固有の安全性を維持できる最大のサイズはどれぐらいか、どのサイズが市場のニーズに最も適しているか、サイズや製造する炉の数によって経済性がどのように変化するかを研究中だ。熱出力10メガワットなら、このうち4メガワットの電力を供給できる。

エネルギー集約型産業や離島など送電網のない僻地で、高温ガス炉は低コストで、地域に密着した信頼性の高い低炭素の電力・熱源を提供できる。余った熱は温室や病院の暖房のほか、自動車やバス、産業用、家庭用の水素製造に利用できる。鉱山が多い寒冷地のカナダには約600基の潜在的な市場があると両社は算盤を弾く。

イギリスでは1メガワット時当たりの発電コストは60ポンド(約9400円)だが、送電コストは120ポンド(約1万8800円)。高温ガス炉では送電コストを節約できる。高温ガス炉の燃料コストは全体の5~10%のため、燃料価格の変動の影響を受けにくく、長期にわたって運転コストを見積もりやすいという利点がある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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