コラム

画期的なCOP26合意、延長戦の舞台裏

2021年11月14日(日)20時20分

ケリー米特使(中央)は本会議場で欧州委員会のティーマーマンス副委員長(左)と中国の解特使と合意に向け協議を重ねた(筆者撮影)

<バイデン大統領のほかにもオバマ元大統領やアル・ゴア元副大統領、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスCEOまでが乗り込んだアメリカの本気が勝ち取った妥協>

[英北部スコットランド・グラスゴー発]197カ国・地域の政府代表団が集まって英グラスゴーで開かれている国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は13日、予想通り延長戦に入った。2015年に採択されたパリ協定を今すぐ実行に移さなければ、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ摂氏1.5度に抑えることができなくなる。

真面目くさったバラク・オバマ元米大統領が「ノー・ドラマ・オバマ」と揶揄(やゆ)されたことに自分をなぞらえた「ノー・ドラマ・シャルマ」こと議長国・イギリスのアロック・シャルマCOP26議長。正午過ぎ、本会場に姿を見せ、スウェーデン公共放送の突撃取材に「合意まであとわずか」と漏らした。フォトグラファーに親指を立て、自信をのぞかせた。

コロナ危機で1年延期されたものの、途上国でワクチン接種が進まない中、強行開催されたCOP26。欧州連合(EU)離脱後、「グローバル・ブリテン」を外交方針に掲げるイギリスは 議長国として「脱石炭」「電気自動車」「気候変動対策資金の増額」「森林保護」をリードしてきた。この日朝に公開された成果文書の最終案にも意欲的な文言が並んだ。

パリ協定では努力目標だった1.5度について「気候変動の影響は気温上昇が2度より1.5度の方がはるかに小さいことを認識し、1.5度に抑える努力を追求することを決意する」と宣言。「世界の二酸化炭素(CO2)排出量を2010年比で30年までに45%削減し、今世紀半ばには正味ゼロにする」と先の20カ国・地域(G20)ローマ首脳宣言より踏み込んだ。

さらに「パリ協定の目標を達成するため、来年末までに30年の国別削減目標(NDC)を見直し、強化するよう」要請している。

加速する脱石炭・化石燃料

気候変動による海面上昇や異常気象の被害をまともに受ける途上国の痛切な訴えや言葉ではなく地球温暖化対策の実行を求めるスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(18)ら若者たちの怒りが大きなCOP26の推進力になった。オセアニアに位置するツバルの気候相はスマホで孫の写真を見せ、「合意が最高のクリスマスプレゼント」と訴えた。

kimura20211114173702.jpg
ツバルの気候相(同)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story