コラム

「さざ波」どころではない日本のコロナ患者数 ワクチン展開でインド変異株から逃げ切れるか

2021年05月25日(火)19時52分

日本の死者は1万2308人。イギリスと比べるなら昨年4月の状況だ。当時、イギリスでは高齢者施設に死者が集中し、入院と酸素吸入が遅れた感染者が次々と亡くなった。まだ通常株より感染力が最大70%強いとされる英変異株も、その英変異株よりさらに感染力が最大50%も強いとされるインド変異株も登場していなかった。

菅義偉首相は「1日100万人接種」の大号令をかけた。24日時点で1日55万8593人まで増えた。7月末までに医療従事者と65歳以上計4029万人の接種を終えるという。イングランド公衆衛生庁によると、米ファイザー製ワクチンは英変異株にもインド変異株にも有効だ。日本では棚上げされた英アストラゼネカ製も1回接種時ではファイザーに引けを取らない。

INDIAVIRUS.jpeg

東京五輪は7月23日~8月8日、パラリンピックは8月24日~9月5日に開催される。IOCのジョン・コーツ副会長は「選手村に居住予定の75%がワクチン接種済みかワクチンを確保している。大会時には80%を超えるだろう」「日本が緊急事態宣言下であっても安全に五輪は開催できる」と五輪そのものをワクチンで"集団免疫"する作戦を披露した。

集団接種と五輪開催の綱渡り

イギリスで1日50万人接種が始まったのは12月8日。入院患者数は翌1月18日に3万9249人でピークアウトし、1万人を割ったのは3月6日。外出禁止が解かれたのは3月29日になってからだ。日本で高齢者へのワクチン接種が開始されたのは4月12日。菅首相の1日100万人接種が軌道に乗ってもトンネルの出口が見えてくるのは8月に入ってからだろう。

ワクチンの集団接種を展開するだけでも大変なのに五輪開催という綱渡りに日本は挑もうとしている。インド変異株の感染拡大スピードがワクチン展開を上回れば、日本の医療は瓦解するだけではなく、経済の復興も遅れるのは必至。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は自身のツイッターでこんな疑問を呈している。

楽天の三木谷浩史会長兼社長も米CNNに五輪開催について「自殺的なミッションだ。日本政府のコロナ対策は10点満点なら2点。世界中から人が集まる大きな国際イベントを主催するのは危険だ。五輪開催のメリットは少ない上、リスクは大きすぎる。インドやブラジルなど多くの国が依然として苦しんでおり、祝う時期ではない」と話した。

すべてはワクチン展開のスピードにかかっている。しかしギロチン台に首をのせ、菅首相とIOCが投げる賽の目が「吉」と出るのを祈らなければならない国民はたまったものではない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story