コラム

余裕の日本 アストラ製ワクチン使わないなら即座に途上国に放出を

2021年05月22日(土)20時36分

調査を担当したオックスフォード大学のポール・ハリソン教授(精神医学)は「コロナはCVTのリスクを著しく増す。30歳未満でさえ、コロナに感染してCVTを発症するリスクはワクチンを接種した場合よりも高い」と語る。ワクチンのリスクとベネフィットは年齢や性別だけでなく、ワクチンの供給量や感染状況によっても変わってくる。

AZ製ワクチンを102カ国目に承認した日本

100万人当たりの1日新規感染者数でも日本を下回ったイギリスでは40歳未満のAZ製ワクチンの接種を見合わせている。しかし全体を見渡さなければ、データが持つ意味を見誤ってしまう。分かっているのはワクチンを打てばCVTを発症する確率は感染した場合に比べてぐんと下がり、mRNAワクチンならAZ製よりその確率は若干下がるという結果だけなのだ。

カナダのマギル大学のCOVID-19ワクチントラッカーによると、ファイザー製の緊急使用を認めた国は85カ国。モデルナ製は46カ国。AZ製は101カ国である。

AZ製が世界中で圧倒的な支持を受けているのは、三つ子の母であるオックスフォード大学のセーラ・ギルバート教授がパンデミックから人類を救うために開発したワクチンだからだ。EUの購入価格では、ファイザー製やモデルナ製は、「原価販売」のAZ製より7~8倍も高い。さらにAZ製は普通の冷蔵庫でも保管がきくので途上国でも展開しやすい。

良心的なAZ製ワクチンにどうしてここまでケチが付いてしまったかというと製薬業界の覇権が関係しているように思われる。アメリカやEUもイギリスの台頭を許すわけにはいかない。mRNAワクチンは優秀だが、血小板減少を伴う血栓症がAZ製にだけ特有の副反応としてフォーカスされたのは国際政治と利権のなせるワザとしか筆者には思えないのだ。

ギルバート教授は今年3月の講演会で「ファイザー製かAZ製かという選択はできない。どちらの有効性も優れている。接種の機会が与えられたら迷わずに接種すべきだ。ワクチンは免疫を鍛える。ウイルスが広がる中、ワクチンを接種しないのはトレーニングせずにマラソンを走るようなものだ」と話した。

102カ国目としてAZ製ワクチンを特例承認したものの当面、使用は見送った日本は航空会社や海外渡航者の希望があればAZ製を接種する方向で調整している。五輪を控えてもなおファイザー製とモデルナ製で足りるとの判断なら致し方ないが、そうであるなら日本が確保しているAZ製ワクチン1億2千万回分は即座に途上国向けに放出したらどうなのか。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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