コラム

変異株を追いかけろ 新型コロナのゲノム解析で世界一になったイギリスの科学力

2021年02月06日(土)10時01分

お手本だったドイツ(1.9件)の5倍超。アメリカ3.12件、日本0.45件。イギリスの検査能力は最初、日本とどんぐりの背比べだった。

COG-UKは解析したゲノムを2週間以内に世界と共有し、変異株を検出して追跡するノウハウを26カ国にアドバイスしている。悪夢のシナリオは、ゲノム解析が行われていない途上国で予想もしない変異が起き、新たな感染爆発の震源地になることだ。

英変異株、南ア変異株、ブラジル変異株を監視

COG-UKのデータサイエンス責任者イーワン・ハリソン博士は「スパイク(突起部)タンパク質の変異でホスト細胞に引っ付きやすくなるか、自然感染やワクチン接種で獲得された免疫を回避するかに注目している」と言う。COG-UKがウォッチしているのは英変異株、南アフリカ変異株、ブラジル変異株の3つだ。

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国立感染症研究所や各種資料をもとに筆者作成

「変異株にパニックを起こす必要はない」

英国内でも南ア変異株で見られる「E484K」の変異を起こした例がブリストルやリバプールで確認されている。どうして世界同時多発的に、感染力を強める「N501Y」や感染やワクチン接種による免疫を回避する「E484K」の変異が起きたのかという筆者の疑問にハリソン博士はこう解説した。

「昨年前半、コロナウイルスまだ同質的だった。しかし感染者が急激に膨れ上がり、変異のチャンスも増えた。自然感染やワクチン接種で免疫を持つ人口が増えると、ウイルスに選択圧が加わる」

「さらに免疫不全でウイルスをなかなか駆逐できない長期感染者の体内で変異が蓄積された。ウイルスの変異には生物学的な限界がある。同じような選択圧が加われば、地球上の違った場所で同じような変異が同時に起きても不思議はない」

ピーコック議長やブロイアー教授は「現在のワクチンは中国のゲノム情報をもとに作られている。COG-UKで解析したゲノム情報はワクチンの開発者や製薬メーカーにアップデートしている。変異株は免疫を回避したとしてもワクチンは重症化や死亡を防ぐなど今のところ有効だ。パニックを起こす必要はない」と語る。

免疫を回避する変異株に対してワクチンを新たに開発するのか、どんな設計にするのかは、開発者やメーカーがバラバラに対応するのではなく、WHOが中心になって連携を強めていく必要がある。しかし「中国寄り」との批判が拭いきれないテドロス事務局長のリーダーシップには大きな疑問符が灯る。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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