コラム

「月給50万円でも看護師が集まらない」医療逼迫下、日本でも「命の選別」は始まっている【コロナ緊急連載】

2021年01月11日(月)10時27分

すなわちICUで優先的に治療を受けられるのは65歳以上の高齢者や虚弱な患者ではなく65歳未満の虚弱ではない患者ということだ。虚弱な患者や高齢者はその代わり一般病棟に収容される。気管挿管という侵襲的治療の効果を期待でき、生存の可能性が最も高い患者を優先するための緊急措置だ。

イギリスでは昨年春の第1波に対処するため全国7カ所にナイチンゲール臨時病院を開設した。ロンドンの臨時病院は4千人規模。ハウク博士は続けた。

「第1波ではナイチンゲール臨時病院への人員配置がボトルネックになったと批判された。私たちの調査では救命救急看護師と研修医が主な制約だった。集中治療にトリアージされた患者は主要な病院にとどまり、生存の可能性が高くなる集中治療を受けさせるべきだ。虚弱な患者や高齢者はナイチンゲール臨時病院に移送され、一般的なケアを受けることができる」

日本では起きているのは「医療崩壊」なのか

今となっては信じられないことだが、第1波では病院のベッドを空けるため、コロナに感染している高齢者を介護施設に送り返し、介護施設で被害を広めてしまった。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの調査ではコロナ以外の死者を含めた超過死亡の半分以上が介護施設の入所者だった。

今度はコロナ陽性の高齢者をナイチンゲール臨時病院に収容して、せめて介護施設での二次感染を防ごうというのだ。イギリスは市民全員が巻き込まれる"対コロナ全体戦争"に突入している。9日、エリザベス英女王(94)もフィリップ殿下(99)もウィンザー城で接種を受けた。政治家、科学者、医者、看護師、介護施設の職員、ワクチン接種を受ける市民も戦争へと追い立てられている。

日本にとってイギリスで起きている医療崩壊の惨状は「対岸の火事」なのか。感染者も重症者も死者も欧米諸国に比べて極端に少ない日本とイギリスを比較して非常に気になる数字がある。人口100万人当たりのコロナ入院患者数の割合である。

kimurachart210110.jpg
筆者作成

日本407人に対してイギリスは458人とそれほど大きな開きはない。いったい日本の医療現場で何が起きているのか。日本医師会の中川俊男会長は6日の定例記者会見で、国民の一部に「まだ医療崩壊の危機ではないのではないか」という声が少なからずあることに対してこう訴えた。

「そのような声に多くの医療関係者が傷ついている。必要な時に適切な医療を提供できない、適切な医療を受けることができない、これが"医療崩壊"だ。医療自体を受けることができない"医療壊滅"の状態にならなければ医療崩壊ではないというのは誤解で、現実はすでに医療崩壊である」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦でエジプトの役割を称賛 和平実

ワールド

トランプ氏、ゼレンスキー氏と17日会談 ウ当局者も

ワールド

トランプ氏、イランと取引に応じる用意 「テロ放棄が

ビジネス

JPモルガン、最大100億ドル投資へ 米安保に不可
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story