コラム

「環境ポピュリスト」小泉進次郎は、楽しくもセクシーでもない温暖化対策の現実を語れ

2019年09月24日(火)16時25分

「霞が関の力学」は、成長を優先する経済産業省の方が、温暖化対策を進めたい環境省より強い。温暖化対策という規制を強めれば、経済成長は減速する。発信力のある小泉氏は経産省にとって早くも邪魔な存在に映り始めているようだ。今後、海外メディアの注目を集めるようになれば、さらに手に負えなくなる。

福島原発事故の後、溜まり続ける処理済水について、経産省出身の原田義昭・前環境相兼原子力防災担当相は退任直前の記者会見で「思い切って(海に)放出して希釈する以外に他にあまり選択肢がない」と発言し、原子力規制委員会の更田豊志委員長も同意見だと述べた。

その更田委員長も「廃炉作業が今後より安全かつ順調に進んでくれることを考えれば、苦渋の決断になるかもしれないけれども、やはり判断ができるだけ速やかになされることを期待したい」と海洋放出の早期決断を政治に求めている。

「(問題とされる)トリチウムの量だけで言えば、通常の原子力施設から放出されているトリチウムの量なり、濃度というものは、処理済水に比べて決して小さいわけではない。諸外国の例で言えば、もっと多くのトリチウムを放出している例はある」とも指摘している。

これに対し、小泉氏は、原田発言は個人的見解だと切り捨て「福島の方がこれ以上傷つくことのない議論をしていただきたいと切に願う」と述べ、就任記者会見では「(原発事故は)二度起こしたら終わりだと思いますね。一つの国で。だから、思いを持って、復興に取り組んでいきたい」と誓った。

そして原発について「どうやったら残せるのではなくて、どうやったらなくせるのかを考え続けていきたい」と断言した。

楽しくもセクシーでもない電源構成の現実

しかし火力発電もダメ、原発もダメとなると、どうやって日本の需要電力量を賄うのか。水力や再生可能エネルギーは電気事業者の発電電力量の2割にも満たないのが現状だ。この答えを出すのは「楽しい」ことでも「セクシー」でもない。

英紙ガーディアンの環境コラムニストを務めるジョージ・モンビオット氏に日本の処理済水問題をどう考えるか尋ねてみた。

「ナラティブ(公に対してどう伝えるか)の問題だ。数十年前のナラティブは原子力が悪だった。私たちに害を与え、突然変異を引き起こし、恐ろしいことのすべてを引き起こす。そして原子力に関する多くの問題が提起された」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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