コラム

中国経済に冬がやってくる 「アップル・ショック」で幕を明けた2019年

2019年01月07日(月)17時30分
中国経済に冬がやってくる 「アップル・ショック」で幕を明けた2019年

木枯らしの季節(中国・北京のアップルストア) Jason Lee- REUTERS

[ロンドン発]新年早々、中国経済や世界景気の下振れを不安視する空気が強まり、市場が乱高下した。米連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は「必要なら政策を大幅に転換する準備がある」と、今年予定していた年2回の利上げを取りやめる考えまでにじませた。

背景にはドナルド・トランプ米大統領が仕掛けた対中経済戦争がある。しかし、中国経済は完全にピークアウトしたとの見方が強まっている。

米中貿易戦争による中国経済の減速を受け、米アップルが1月2日、2018年10~12月期の売上高が当初予想より5~10%低くなりそうだと発表した。翌3日の米株式市場でアップル株は10%も急落し、世界同時株安が進んだ。

「アップル・ショック」を機に、英紙フィナンシャル・タイムズや英BBC放送は一斉に中国経済の限界を報じた。

英コンサルティング会社キャピタル・エコノミクスの2019年グローバル経済報告書は衝撃的な内容だった。中国経済は今後20年間で下のグラフのように急減速していくという(各国、棒グラフは下から古い順)。

世界の経済成長率の予測2019 (720x540).jpg

2028~37年になると中国の実質国内総生産(GDP)年変化率の平均値は2%にまで落ち込み、米国の2.6%に追い越される。インドのそれは5.5%とまだまだ元気だが、日本は0.5%、欧州単一通貨ユーロ圏は1%に留まる。

同報告書の分析によると、中国の成長率が低下していく理由は資本蓄積の減速と生産年齢人口の減少だ。

中国の民間非金融部門債務残高はGDP比で200%を超え、金融危機を経験した日本やスペインのレベルに達している。しかし、金融システムを政府が管理しており、国家のバランスシートにまだ負債を抱え込む余地があるため、金融危機は回避されるという。

中国経済は、為替相場の短期的な影響を排除した購買力平価(PPP)で見た場合、すでに米国を凌駕している。しかし世界経済に占める割合は2018年の19%から2040年には17%に縮小する。米国は15%から14%に縮小するものの、土俵際で踏み止まっている格好だ。

世界経済シェアの予測 (720x540).jpg

一方、インドの世界経済に占めるシェアは8%から15%に拡大している。

中国発の恐ろしい予測

昨年12月中旬、北京大学国際通貨研究所の上級研究員が講演で「政府の影の研究グループは、2018年の中国の経済成長率は公式発表の6.7%を大きく下回る1.67%と推定している」と語った。

この発言はインターネット上から削除されたが、ユーチューブで120万回も視聴された。昨年、中国の株式市場は28%も下落した。

中国経済の減速を懸念している企業はアップルだけではない。欧米の自動車メーカーのゼネラルモーターズ(GM)、フォード、フィアット・クライスラー、ジャガー・ランドローバーも警告を発している。

中国のテクノロジー企業ではレイオフ(一時解雇)が広がり、検索エンジン大手、百度の李彦宏会長も従業員を前にTVドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』の有名なエピソードを引いて「冬がやってくる」と語った。

一方、米国でも景気後退入りへの懸念が膨らむ。最高財務責任者(CFO)を対象にした米デューク大学の調査では、48.6%が今年末までに米国経済は景気後退入りすると回答。来年末までには82%が景気後退入りすると確信していた。

今年3月初めを期限とする米中貿易協議が不調に終われば、景気の先行きはますます不透明になる。

返り血を浴びてまで、トランプ大統領が中国に貿易戦争や、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)を巡る5G戦争を仕掛けた理由は何なのか。

このままグローバル化というゲームを続けると名目GDPでも、軍事力でも米国が中国に追い抜かれる日は確実にやってくる。これはアジア太平洋だけでなく、世界の覇権を死守するため米国が中国に仕掛けた戦いなのだ。

英国では、欧州連合(EU)離脱合意を巡る議会採決が1月中旬に予定されている。テリーザ・メイ首相の合意が否決されれば、世界経済に深刻な打撃を与える「合意なき無秩序離脱」のリスクが大きく膨らむ。

2019年が波乱の年にならないことを祈りたい。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com

MAGAZINE

特集:ニュースを読み解く 哲学超入門

2019-5・28号(5/21発売)

トランプ現象、移民、監視社会、SNS...... AIも解答不能な難問にあの思想家ならこう答える

人気ランキング

  • 1

    「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はいま......

  • 2

    元TBSアナ久保田智子:不良だった私が東大に入るまで

  • 3

    アメリカがイランを攻撃できない理由──「イラク侵攻」以上の危険性とは

  • 4

    現代だからこそ! 5歳で迷子になった女性が13年経て…

  • 5

    「イランは終わりだ!」バグダッドの米大使館付近へ…

  • 6

    「幸せな結婚生活」の科学 研究者夫妻が導き出した…

  • 7

    【特別寄稿】TBSアナ久保田智子「私の広島、私達のヒ…

  • 8

    学力格差より深刻な、低所得層の子どもの「自尊心格…

  • 9

    ファーウェイたたきはトランプの大博打

  • 10

    29年前の「女子高校生コンクリート詰め殺人事件」の…

  • 1

    徴用工問題で日韓が近づく危険な限界点

  • 2

    29年前の「女子高校生コンクリート詰め殺人事件」の容疑者が再犯 少年法見直しの議論は海外にも 

  • 3

    「人肉は食べ飽きた」と自首した男と、とんでもない「仲間」たち

  • 4

    トランプの言うことは正しい

  • 5

    アメリカがイランを攻撃できない理由──「イラク侵攻…

  • 6

    「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はい…

  • 7

    10%の食塩水1kg作るのに必要な塩と水は? 大学生が「%…

  • 8

    ジョンベネ殺害事件で、遂に真犯人が殺害を自供か?

  • 9

    「古代マヤの宇宙飛行士」説、アメリカで再浮上?

  • 10

    強気の米中、双方に死角あり「アメリカはまずい手を…

  • 1

    徴用工問題で日韓が近づく危険な限界点

  • 2

    「英王室はそれでも黒人プリンセスを認めない」

  • 3

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、被害続発する事情とは

  • 4

    59歳の人気ランジェリーモデルは5年前まで普通のお母…

  • 5

    29年前の「女子高校生コンクリート詰め殺人事件」の…

  • 6

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 7

    おどろおどろしい溶岩の世界!?木星の北極の正体が…

  • 8

    現代だからこそ! 5歳で迷子になった女性が13年経て…

  • 9

    「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はい…

  • 10

    金正恩の「最愛の妹」身辺に異変か......「米朝決裂…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
広告営業部員ほか求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!