コラム

『長生きできる町』から健康寿命を考える

2020年02月13日(木)16時45分

おわりに

今回は『長生きできる町』(近藤克則著、角川新書)の内容を中心に健康寿命について考えてみた。本書は、健康格差を考える上で必要な背景やデータを多角的に用いて説明している点が非常に分かりやすく、説得力が感じられた。著者は本書を通して、ただ長生きするのではなく、健康に長生きすることの大事さや、地域間の健康格差を解消するための地域における取組の実施の重要性を強調している。人間関係が薄い都市部で「サロン」と呼ばれる通い場を増やす試みや社会参加できるボランティア数を増やす取り組み、地域の課題の見える化などの実施がその良い例だと思う。

厚生労働省は、「健康寿命をのばしましょう」をスローガンに、国民全体が人生の最後まで元気に健康で楽しく毎日が送れることを目標とした「スマート・ライフ・プロジェクト」を2012年度から実施している。このプロジェクトでは、生活習慣病予防の啓発活動の奨励・普及を図るため、「健康寿命をのばそう!アワード」(生活習慣病予防分野)を実施しており、2019年で第8回目を迎えた。

健康寿命を延ばすためには、適度な運動、適切な食生活、禁煙、健診・検診の受診が重要であると知られているが、それ以外にも社会参加が重要ではないかと思われる。筆者は都道府県のデータを用いて有業率と男性の健康寿命の相関関係を見てみた。分析の結果、65歳以上の有業率が男性の健康寿命に正の影響を与え、統計的に有意である結果が出た。この結果は社会参加が健康にプラスの影響を与えることを証明している。

■健康寿命(男性)と有業率(65歳以上)の相関関係
200213_health_age.jpg

では、どうすれば定年後に社会参加を増やすことができるだろうか。定年後の社会参加を増やす方法の一つとして考えられるのが「リカレント教育」である。リカレント教育とは、義務教育や基礎教育を終えて労働に従事するようになってからも、個人が必要とすれば教育機関に戻って学ぶことができる教育システムである。現在の仕事だけではなく、定年後のことを考えてリカレント教育などに積極的に参加することは定年後の社会参加の可能性を高めるのにプラスの影響を与えるだろう。リカレント教育への参加などが健康寿命を延ばし、日本全国が「長生きできる町」になることを願うところである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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