コラム

韓国、2020年の最低賃金の引き上げ率2.87%が「惨事」と言われる訳

2019年07月23日(火)17時55分

求人票を見る韓国人 REUTERS/Kim Hong-Ji

<最低賃金を引き上げることで所得と消費を増やすのが文大統領の公約だったが、韓国に多い零細自営業者が人を雇えず苦しくなってきた>

2020年の最低賃金引上げ率は2.87%に決定

韓国の最低賃金委員会は7月12日に、2020年の最低賃金を今年より2.87%引き上げ時給8590ウォンにすることを確定した。これは2018年と2019年の引上げ率16.4%と10.9%を大きく下回る数値であり、1986年12月31日に「最低賃金法」が制定・公布され、1988年に施行されて以来、3番目に低い引上げ率である。過去に最低賃金の引き上げ率が3%を下回ったのはアジア経済以降の1999年(2.7%)とリーマン・ショック以降の2010年(2.75%)のみである(図表1)。

公益代表、労働者代表、使用者代表の各9人で構成される最低賃金審議会は、12日の夜中まで続けられた第13次会議で、使用者代表が提示した時給8590ウォン(引き上げ率2.87%)と労働者代表が提示した時給8880ウォン(引き上げ率6.3%)に対して票決を行った結果、15対11(棄権1)で使用者代表の案を2020年の最低賃金にすることを決めた。 

最低賃金を月給基準(209時間)注1)に直すと、1カ月179万5310ウォンで、今年の174万5150ウォンより5万160ウォン引き上げられた。

図表1 韓国における最低賃金及び対前年比引上げ率の推移
korea_wage190723_1.jpg
注)1988年には1グループ(462.5ウォン)と2グループ(487.5ウォン)に区分されていたのでグラフから除外した。 (出典)韓国最低賃金委員会ホームページから筆者作成

2020年までの最低賃金1万ウォンは実現不可能に、ナショナルセンターが非難

今回の決定により2020年までに最低賃金を1万ウォンに引き上げるとした文在寅大統領(以下、文大統領)の公約は事実上実現できなくなった。公約を実現するためには2018年から毎年16%以上最低賃金を引き上げる必要があったものの、賃上げが雇用減を招いた結果、2019年の引上げ率は10.9%に、さらに2020年には2.87%に当初の計画を大きく下回ることになった。


※注1) 月給基準の労働時間が209時間になる理由は週休手当が含まれているからである。週休手当とは、1週間の規定された勤務日数をすべて満たした労働者に支給される有給休暇手当のことで、雇用形態に関係なく週15時間以上働いた場合に支給される。例えば、週5日勤務で一日8時間ずつ週40時間アルバイトをした場合は、週休日に働かなくても、一日分の日当を受けとることができる。また、週5日勤務で一日3時間ずつ週15時間アルバイトをした場合は「3時間×時給」が支給される。月給基準の労働時間209時間の計算式は式1)の通りである。
式1)(365日÷12カ月÷7日)×(40時間(法定労働時間)+8時間(週休手当))=208.5714時間

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀、ステーブルコイン規制を緩和 短国への投資6

ビジネス

KKR、航空宇宙部品メーカーをPEに22億ドルで売

ビジネス

中国自動車販売、10月は前年割れ 国内EV勢も明暗

ビジネス

ユーロ圏投資家心理、11月は予想以上に悪化 「勢い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 10
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story