コラム

紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い...規制緩和の問題は、むしろ日本独自の「歪み」にある

2024年04月17日(水)18時44分
小林製薬「紅麴サプリ」問題

CFOTO/FUTURE PUBLISHING/GETTY IMAGES

<小林製薬「紅麴サプリ」問題をめぐり、2015年に安倍政権の成長戦略の一環として導入された機能性表示食品制度がやり玉にあがるが>

小林製薬の健康被害問題で、規制緩和によって導入された「機能性表示食品」が被害を拡大させたとの指摘が出ている。確かにこの制度が悪影響をもたらしたのかについて検証する必要があるが、これをもって規制緩和そのものを否定するのは早計である。

日本における規制緩和というのは、特定企業の優遇策にしかなっていないことが多く、本当の意味で企業間競争を活性化させる役割を果たしていない。機能性表示食品も本来の規制緩和とは方向性が異なるものだった可能性が高い。

現代の資本主義社会において、規制緩和が経済成長に果たす役割は大きい。なぜなら政府の保護で特定大企業による独占や寡占が行われると、適切な競争が阻害され、経済全体の効率が著しく低下するからである。

消費者にとっても、保護された企業のシェアが大きすぎると、価格を一方的に決められてほかに選択肢がなくなり、その価格を受け入れざるを得ないという不都合が生じる。とりわけ市場メカニズムを重視するアメリカ社会では、大企業による独占や寡占、あるいは政府による過剰な保護というのは排除すべき存在と見なされている。

機能性食品の導入で安倍首相が語っていたこと

一方で、単純に企業の負担を軽減し、消費者のリスクを高めるだけの改革は、本来の意味での規制緩和には該当しない。そのようなことをすれば、当該分野に強い大企業をさらに潤わせ、消費者を危険にさらすだけだからである。

当然のことながら、こうした間違った規制緩和政策の下では企業の新規参入も促進されない。単純な企業負担の軽減策では、市場において既に高いシェアを持ち、体力のある大企業がさらに有利になる可能性が高く、健全な競争環境は構築されない。

機能性表示食品制度は2015年、安倍政権が進める成長戦略の一環として導入された。この制度では、国による審査はなく、届け出のみで製品を製造・販売することが可能であり、導入当初から安全性への懸念が相次いでいた。

安倍晋三首相(当時)は食品に関する規制について「中小企業・小規模事業者には、チャンスが事実上閉ざされているといってもよいでしょう」とスピーチしている。つまり機能性表示食品制度には、中小企業やベンチャー企業の活動を活性化させる役割があると認識していたようだが、この考えは誤りといってよい。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story