コラム

円安は投機筋の影響より「日本の実力」と見るべき...もはやマイナス面の方が大きい

2022年04月06日(水)17時15分
為替相場(円安)

KIM KYUNG-HOONーREUTERS

<急激に進む円安は、日本経済のファンダメンタルズから見て必然の結果だった。この状況を受け入れたうえでの改革が必要となる>

このところ急ピッチで円安が進んでいる。投機筋の影響も大きいが、円安という流れそのものは日本経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)から予想されていたことである。今、起こっている円安を理解することは、日本経済を理解することと同じであり、今後の推移についてもある程度、冷静に受け止められるだろう。

円安の直接的な原因はアメリカが本格的な金利引き上げフェーズに入ったからである。同国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備理事会)は金融政策の正常化を進めてきたが、インフレが予想以上に進み、ウクライナ問題も加わったことから金利の大幅な引き上げを余儀なくされた。

一方、日銀は量的緩和策からの手仕舞いができず、金利を上げられない。日米の金利差が拡大すれば、当然のことながら円は売られやすくなる。金利差の拡大が一時的であれば、やがて相場も落ち着くはずだが、今回はそうならないかもしれない。

その理由は、両国の金利差は構造的なものであり、今後も継続すると予想する専門家が多いからだ。

アメリカのインフレは今のところ景気拡大に伴う需要拡大要因と、石油価格の高騰という物価要因が混在している。米国経済は基本的に好調なので、金利を上げてもすぐに景気が腰折れする可能性は低く、利上げと国債売却を通じて量的緩和策から脱却しつつ、インフレを抑制する道筋が見えてくる。

日米の金利差は今後も拡大する

日本の場合、量的緩和策を実施しても景気は全く回復せず、日銀は大量の国債を抱えた状態で身動きが取れない。政府も1000兆円の債務を抱えているので、ここで金利が上がってしまうと、政府の利払いが急増してしまう。

この状況は短期間で解消できるものではなく、日米の金利差拡大は今後も継続する可能性が高い。日銀の黒田東彦総裁は金融緩和策を継続する方針を示しているが、現実には継続するしか選択肢がないと考えたほうが自然だろう。

この状況では、日本の相対的な金利は低く推移し、それによって円安がさらに進むシナリオが有力である。一般的に円安は輸出企業に有利となり、輸入企業には不利になる。

日本企業に競争力があれば円安は経済にとってプラスに働くが、競争力が低下した現状では交易条件の悪化をもたらすため、経済全体にとってマイナスの影響が大きい。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story