コラム

「スガノミクス」を侮るな 注目すべき独自路線の大きな可能性とリスク

2020年09月24日(木)11時54分

NICOLAS DATICHEーPOOLーREUTERS

<菅首相が掲げる経済政策は、単なるアベノミクスの継承ではない。大きな成果が期待できるが、リスクも大きい>

菅義偉前官房長官が新首相に選出された。菅氏は基本的に安倍政権の経済政策であるアベノミクスを継承するとしているので、経済面で大きな変化は生じないだろう。だが菅氏が掲げる公約の中には、安倍政権とは明らかに異なる部分もある。これがプラスに作用した場合、大きな成果につながる可能性があるが、一方で政権の弱点にもなり得る。

今回の自民党総裁選では党員投票が行われなかったことから、菅氏の新首相就任はほぼ確実視されていた。菅氏が掲げる公約は、そのまま新政権の政策となり、菅氏は総裁選の期間中、一貫して安倍路線の継承という現実的スタンスを貫いた。だが、中身をよく検証すると、独自の路線が垣間見える。最も注目すべきなのは省庁再編とデジタル化だろう。

アベノミクスは、金融政策(量的緩和)と財政政策、そして成長戦略の3つを組み合わせるというものだったが、金融政策と財政政策はあくまでカンフル剤であり、政策の本丸は構造改革を基本路線とした成長戦略だった。

ところが安倍政権は、構造改革には一切手を付けず、もっぱら金融政策のみに頼る結果となった。アベノミクスがうまくいかなかった理由はまさにここにある。

省庁再編の日本経済への影響は大きい

菅氏はアベノミクスの継承に加え、デジタル庁の創設や厚生労働省の再分割など省庁再編を検討しているとされる。これらの施策が本格的に実施された場合、日本経済に与える影響は極めて大きい。

厚労省は2001年の中央省庁再編によって厚生省と労働省が統合して出来上がった役所である。だが労働行政と厚生行政は本来、別々の業務であり、統合によって直接的に得られるメリットはほとんどない。

また、両省の統合で予算規模は膨れ上がり、1人の大臣でマネジメントするのが物理的に難しくなった。19年に発生した同省の統計不正問題やコロナ対策の迷走も、厚労省の組織が大き過ぎることと深く関係している。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」

ワールド

訂正-米政権、政治暴力やヘイトスピーチ規制の大統領

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story