コラム

消費税の減税に踏み切ったドイツ──日本が学ぶべきこととは

2020年06月24日(水)06時30分

WOLFGANG RATTAYーREUTERS

<財政均衡は重要でない、減税で経済成長を、といった主張は正しいのか?>

ドイツ政府が日本の消費税に当たる付加価値税を7月からの半年限定で19%から16%に引き下げるとともに、電気自動車(EV)やITなど先端分野を中心に大規模な財政出動の実施を決定した。減税で足元の景気を刺激し、同時にコロナ後の社会を見据えた先行投資を行うという野心的な経済政策といってよい。

ドイツの決定を受けて、日本でも減税を求める声が出ているが、実現は容易ではない。ドイツと日本では財政事情がまるで違っているからである。

ドイツは徹底的な緊縮財政主義で知られ、憲法(ドイツ基本法)で財政均衡が義務付けられている。好調な経済を背景に債務の圧縮を進めており、過去6間、新規の国債発行を行っていない。今回のコロナ対策では国債を大増発して各種の経済政策を次々に実施したが、大胆な支出を決断できたのは、健全財政によるところが大きい。

一方、日本の政府債務の規模は先進国でも突出している。ドイツにおける政府の総債務の対GDP比(IMF基準)は約0.6倍だが、日本は約2.4倍もある。ここまで政府債務比率が高いと、市中の投資家だけで国債を消化するのは難しく、中央銀行に頼らざるを得ない。だが、いくら中央銀行の購買力が無限大だと言っても、中央銀行の健全性を市場が疑問視すれば金利の上昇、つまりインフレを招きやすくなる。

財政支出の財源にふさわしいのは?

日本政府はコロナ危機に際して2回の補正予算を通じて、真水で60兆円近くの財政支出を決定したが、国内では財政均衡論者を中心に、東日本大震災の復興特別税のような税金上乗せで財源を手当てするプランが議論されている。一方、財政拡大を主張する人は全額国債で賄うべきとしており、現代貨幣理論(MMT)に代表される極端な論者は、事実上、無制限の財政出動が可能だとしている。

世の中では時折、財政均衡論者が間違っており財政拡大論者が正しいとの主張が見られるが、財政やマクロ経済の本質を考えた場合、どちらの手法も大差はない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story