コラム

高級ブランド帝国LVMHが、これほど巨大になれた理由

2019年11月22日(金)11時48分

ERIC GAILLARDーREUTERS

ルイ・ヴィトンなどの高級ブランドを傘下に持つ仏LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)が、米ティファニーの買収に乗り出した。買収金額は1兆5000億円を突破するとみられ、実現すれば高級ブランドの寡占化がさらに進むことになる。

LVMHはグループ内に75ものブランドを抱えるコングロマリットである。ルイ・ヴィトンを中心に、クリスチャン・ディオール、フェンディ、ブルガリ、タグ・ホイヤー、モエ・エ・シャンドンなど多岐にわたっており、昨年の売上高は468億ユーロ(約5兆7000億円)にもなる。

高級ブランド業界は近年、急速に寡占化が進んでおり、LVMHを筆頭に、グッチやサンローランを抱える仏ケリング、カルティエやIWCなどを擁するスイス・リシュモンの3グループに集約されつつある。

この業界は小規模な家族経営だったところが多く、グローバルなM&A(合併・買収)になじまないイメージがある。品質を維持するために伝統的な製法を守る必要があるため工程の共通化も難しい。

このような業態の場合、M&Aで規模を拡大させるメリットは少ないというのが一般的な解釈だが、現実には想定を超えるスピードで事業の集約化が進んできた。背景にあるのは世界経済の驚異的な成長である。

1980年代は先進国と新興国で成長率に大きな差はなかったが、90年代から新興国の成長が顕著となり、世界経済の規模は大幅に拡大した。各ブランド企業は、市場拡大の波に乗って、それぞれの事業領域に相互進出するようになり、少量生産の高級品から一種のコモディティ商品へと変貌を遂げた。

巨大グループの支配者

LVMHの株式の47.2%を保有し、同社を事実上支配しているベルナール・アルノー会長兼CEO(最高経営責任者)は、ブランドとは無縁の不動産業界出身である。1984年に経営が傾いたクリスチャン・ディオールを買収したのをきっかけにファッション業界に参入し、その後、次々と高級ブランドを買収して現在の体制をつくり上げた。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、スビリデンコ第1副首相を新首相に指

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story