コラム

ローソンの子会社化は、三菱商事の自己救済策だ

2016年09月20日(火)17時55分

三菱商事は巨額赤字で苦しい台所事情

 今回の子会社化は、ローソン側ではなく、むしろ三菱商事側の事情で実施されたと考えた方が自然である。三菱商事は2016年3月期の決算において、同社が現在の経営体制になってからは初めての赤字決算に転落している。原因は資源価格の低迷である。

 チリの銅事業において2700億円の減損が発生したほか、オーストラリアの鉄鉱石事業や天然ガス事業、アジアにおけるエネルギー関連事業などでも減損が発生し、大口損失額は4300億円にも達する。

 資産の減損は一時的なものだが、資源価格の低迷は今後も続くと見る専門家が多い。同社は、非資源部門の業績を拡大させなければ、これまでの業績を維持することが難しい状況である。ところが非資源部門における重点分野とされる生活産業グループ(ローソンもこの部門に含まれる)の業績もあまり芳しいものではない。売上高こそ前期比5%増となったが、部門利益は39%の減少にとどまっている。

 では、ローソンを子会社化し、ローソンの売上げと利益を三菱商事の連結決算に取り込むことで業績を拡大させるシナリオかというと、おそらくそうではないだろう。三菱商事が期待する純利益は2000億円から3000億円という水準だが、ローソンの純利益は300億円しかない。子会社化でかさ上げできる利益などたかが知れている。三菱商事が期待しているのは、やはり商流の拡大である。

 ローソンが仕入れる商品の中には三菱商事経由で入ってくるものも多い。もっとも、ローソンと三菱商事の間には、三菱商事の子会社である三菱食品という会社が入っており、ローソンは多くの商品を三菱食品から仕入れている(三菱食品は食品卸の菱食を中心に4社が合併して2011年に誕生した)。三菱食品の売上高は横ばいが続いており、持続的な成長を実現できていない。また、売上高の約3割をローソンなどのコンビニに依存していることから、ローソン向けの売上げが増えないと、三菱食品の業績も伸びない可能性が高い。

ローソンにメリットがあるとは限らない

 ローソンは、三菱グループ以外からも大量に商品を仕入れているが、商品の仕入れを変更する交渉は容易ではない。三菱商事の子会社になれば、仕入れ先に対しても言い訳が立つ。今回の子会社化の最大の狙いは、やはり三菱グループの商流拡大にあると考えた方が自然である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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