コラム

グラフでわかる、当面「円高」が避けられないただ1つの理由

2016年02月16日(火)15時35分

〔ここに注目〕物価

 為替市場において円高が進んでいる。マイナス金利が発表された直後は、1ドル=120円まで下落したものの、その後、マイナス金利の弊害が強く意識されるようになり、一気に円高となった。ニュースには「安全資産への逃避」「リスクオフ」などの見出しが並んだが、日米欧の中でもっとも景気が悪い日本市場が避難先という話には、違和感を覚えた人も多いかもしれない。現在、円高は一服しているが、しばらくは混乱が続く可能性が高い。ここは少し冷静になり、為替市場のメカニズムについて理解を深めておくことが重要だろう。

【参考記事】マイナス金利で日本経済の何が変わるのか

理論的な為替レートを超えて円安になることはない

 為替は様々な要因で動いているので、一概に何によって為替が決定されているのかについて示すことは難しい。為替を動かす要因としては、「二国間の金利差」「マネー供給量」「物価」などがあるが、これに加えて経常収支の動向やファンドの買いといった実需要因が影響することもある。しかし長期的に見た場合、為替が何によって動いているのかはほぼ明白である。それは「物価」である。

 為替と物価の相関性が高いことは、いわゆる「一物一価」の原理で説明することができる。物価が高い国の為替は安くなり、物価が安い国の為替は高くなるという単純な理屈だ。一物一価に関してよく引き合いに出されるのが、各国のマクドナルドの価格を比較した、いわゆるビッグマック指数である。もし、一物一価の原則が成立するならば、ある国のビッグマックの価格が永遠に上昇することはあり得ない。物価が上昇した国の通貨は下落し、物価が下落した国の通貨は上昇することで、最終的にビッグマックの価格は一定レベルに収束することになる。

 これを為替に適用したものが購買力平価の為替レートということになるが、このレートは長期的に見ると現実の為替レートと高い相関性を示している。二国間のマネタリーベースの差(いわゆるソロス・チャート)など、他の要因については、適用できる局面とそうでない局面が混在しているが、物価に関してはほとんど例外がない。少なくとも長期的には為替は物価の差で決定されるとみて差し支えない。金利差についても、物価動向が金利を決める要因のひとつになっていることを考えると、結局のところ為替は物価に収束すると考えてよいだろう。

 ドル円相場は、1971年のニクソン・ショックをきっかけに固定相場制が実質的に崩壊。73年に変動相場制に移行してからは、一貫して円高ドル安が続いてきた。それ以降のドル円の動きは、日米間の物価上昇率を元にした購買力平価の為替レートと綺麗に連動している。

 1985年のプラザ合意以降、為替介入などで一時的に円安になることはあっても、購買力平価による理論的な為替レートを超えて円安になることはなく、基本的に円高トレンドが継続してきた。

 90年代初頭の日本のバブル崩壊以後、米国は順調に経済成長を続け、穏やかなインフレが長期にわたって続いている(リーマンショックという一時的例外はあるが)。一方、日本は長期のデフレに悩まされており、経済水準も物価もずっと横ばいであった。米国の物価と日本の物価に乖離が生じていることから、為替レートがこれを調整してきたのである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハンガリー外相、EUのロシア産エネルギー輸入廃止を

ワールド

アルゼンチン、米と貿易協定協議 優遇措置も=ミレイ

ワールド

中国のレアアース輸出規制、供給網への影響拡大を強く

ワールド

豪失業率、9月は4.5%で4年ぶり高水準 利下げ観
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story