コラム

領土は売買できるもの――「トランプ新世」の価値観に対応せよ

2025年03月28日(金)18時00分

ウェストファリア条約は、30年戦争の敗者である神聖ローマ帝国のハプスブルク家を恒久的に弱体化しておくため、同帝国内の300以上もの領邦国等に「主権」を与えたのがその本質で、勝者のフランス、そしてイングランドはこの後も領土拡張、帝国建設の動きを止めなかった。

北方領土の購入案を提示しては?

現代でも、国と国の間での領土の売買を禁じる国際法はない。国連憲章にも、「領土の売買は違法である」とは書いてない。相手国の政府と住民、そこに投資している外国人、そして周辺諸国が反対しなければ、領土を売っても構わない。現にロシアでも、「ウクライナ紛争で西側が凍結したロシアの国外資産への請求権を放棄する代わりに、ウクライナ東部のロシアへの編入を承認してもらう」と、実質的な購入を口走る識者がいる。


工業化=産業革命の結果生じた広汎な中産階級をベースとする民主主義は、製造業が退化したアメリカで有効性を失ってきた。野心家が少数の資本家から多額の政治資金を得ては(アメリカでは政治献金が実質的に青天井になっている)、大宣伝戦を展開して困窮した大衆層の票を吸い上げる。

当選すれば金持ちには減税で返礼し、大衆には「君たちの職を取り戻すために関税を上げ、不法移民を追放してやった」とお茶を濁す。近代民主主義は、社会的価値観が崩壊した「没価値」のポピュリズムと専制の混合物へと姿を変え、国際関係で主権国家は後退し、領土さえもビジネスと同じ取引対象となった。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

キーウ空爆で8人死亡、88人負傷 子どもの負傷一晩

ビジネス

再送関税妥結評価も見極め継続、日銀総裁「政策後手に

ワールド

ミャンマー、非常事態宣言解除 体制変更も軍政トップ

ワールド

ロシア前大統領、トランプ氏の批判に応酬 核報復シス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story