コラム

中国とロシアの「権威主義同盟」は世界を変えるのか

2023年03月14日(火)14時30分

<過去400年ロシア優位で推移してきた両国関係は、いま中国優位へと変貌しつつある>

中国は3月5日からの全国人民代表大会で政府の新陣営を確定した。外交も内政も大きく動き出すだろう。外交の第一手は習近平(シー・チンピン)国家主席のロシア訪問だ。

中ロ間には数々の歴史的因縁があるが、これまではロシアのほうが優勢だった。16世紀末、モンゴル支配から抜け出したロシアはウラル山脈を越え、シベリアに進出。1860年の北京条約で今のウラジオストクまでの支配を清朝にのませた。以後、革命で一時力を失ったものの、新国家ソ連は国民党に取り入って影響力拡大を図る。

1949年に中国共産党が建国しても、スターリンは日本から奪還した満州を中国に直ちには渡さなかった。50年からの朝鮮戦争ではソ連軍を出さず、中国に圧力をかけて義勇軍を参戦させた。しかし56年のフルシチョフによるスターリン批判後、中国はソ連と路線闘争を始め、69年には国境をめぐり両国軍が武力衝突を起こした。

無用な中ソ・中ロ対立に終止符を打ったのがプーチンで、彼は2001年7月に中ロ善隣友好協力条約を、04年10月には国境協定を結んで境界を画定させた。

習近平にとってプーチンは、大統領4選を実現した仰ぎ見るべき兄貴分だ。08年ジョージア、14年クリミア、15年シリアで軍事侵攻・介入を成功させ、アメリカの鼻を明かす。情にも厚く、世界中から総スカンを食らった22年の北京冬季オリンピックの開会式にわざわざやって来てくれた。

中ロの上下関係が逆転した

しかし、この400年余りロシア優位で推移してきた中ロ関係は、今われわれの眼前で中国優位に変化している。GDPで中国はロシアの約10倍、極東方面では軍事力でも大差をつけている。

「習近平が訪ロすれば、権威主義大国同士の『神聖同盟』が成立する。この同盟は、グローバルサウスを従えて、西側の自由・民主主義・市場経済を邪魔する大勢力となる」という声があるが、それは中ロの力を過大評価している。中国とロシアのGDPは、アメリカ、日本、韓国、オーストラリアの合計の3分の1程度でしかない。

世界に展開できる軍事力で、中ロはアメリカに大きく劣る。人民元が国際基軸通貨になると言う者もいるが、中国が国際資本取引を自由化せず、人民元への規制を大きく残す現状ではあり得ない。ドルは「便利で得になる」から皆使っているのだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄、今期純利益は42%減の見通し 市場予想比

ビジネス

リクルートHD、今期10%増益予想 米国など求人需

ビジネス

午後3時のドルは145円半ばへ小幅反落、楽観続かず

ビジネス

再送中国SMIC、第1四半期は利益2.6倍 関税影
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 10
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story